言語の獲得過程 - 趣味で学問

言語の獲得過程

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目次

1.発達心理学での前提を知ること

このページでは、言語と呼ばれるもろもろの事項を子どもがどのようにして獲得していくのか、発達心理学でどのように考えられているかを示そうと思います。現代の心理学なので、当然、実験を行いその結果をもとに考え方を提示しているのですが、実際の実験の紹介やその解釈における疑問点などは次ページに紹介しようと思います。

どの学術分野でも、その分野一般に受け入れられている前提があります。実験のほとんどは、その前提をもとに立てられた仮説を検証するために行われるものです。分野に関係なく、各分野で広く受け入れられている基底的思想を読み取ることが、その学術分野を知る、学ぶことの重要課題です。受け入れられている前提が正しい確証はありませんが、いったんそのことの是非は置いておきます。このページでは発達心理学に共通して見られる(と自分が思っている)考え方を提示することを、最終の目標とすることにします。

2.言葉の獲得を調べるにあたっての原則:分割できそうなものは分割してしまう

心理学は社会科学と呼ばれる分野の一つでもあって、自然科学などと方法を共有する部分が大きいです。科学においては、分割できるものは分割して後で足し合わせる、という方法がよくとられます。理工系では、こういう方法が適用できる対象の性質を「線形性」と呼ぶことが多いです。

言語の獲得に関しては、獲得される言語の特性として、音韻、身振り、言葉(語彙)、文法等に分割がされているようです。分割の仕方は他にもあるでしょうが、研究のしやすさなどの観点から、自然とその分割の仕方に収束していたりします。このあたりの事情はどの分野でも変わらないでしょう。ちなみに、分節するごとに意味が変質し足し合わせにより元に戻らないような場合(多様体、非線形性)はどうするのか、という問題がありますが、いったん置いておきます。

3.音韻、語彙の獲得

子どもは通常2歳から3歳までには、言葉の意味を(自分なりに)理解して使用を開始します。我々が言葉と呼んでいるのはろう者などを除いて連続的な音のつながりです。各言語体系ごとに使用する音に違いがあるので、言葉の獲得の際には音韻の違いも獲得しているはずです。そして音韻の獲得と共に、音節数が数個の短い言葉(文?)が使用されます。まず音韻、次に言葉の獲得に関する考え方を紹介します。

3.1 音韻の獲得(参照文献1、第2章)

子どもが言語の獲得で耳にしているのは連続の音声です。大人との会話を繰り返すうちに、自然と連続した音声に区切り(音節)を入れて認識するようになる、と推測できます。音節の獲得は、0歳児を対象とする研究から、プロソディー(prosody, 韻律)と呼ばれる、音の高低や速度、長さなどの情報を手がかりとして行われていると考えられています。それに加え、各音節間でどの音韻が連続する確率が高いかといった、統計情報も同時に利用していると考えられます。

音韻の聞き取りはかなり早い段階から始まり、母音と子音の聞きわけは、生後1ヵ月から3ヵ月の間には成立しているようです。獲得の手がかりとして、音響的な特性を利用していると考えられますが、他にも養育者による強調した語りかけ方など、社会的な関わり合いが作用していることも、実験結果から示唆されています。

3.2 語彙の獲得(参照文献1、第4章)

子どもはことばを発する前からある程度ことばを理解していると思われる行動をとります。ここでは子どもが言葉を発することに着目します。

子どもが発する初期の言葉の特徴として、ヒト、動物、食べ物、乗り物、からだの一部、挨拶などの言葉が多いことが挙げられます。といっても、子どもの言葉が大人の言葉と一致しているわけではなくて、大人よりも適用範囲が広いという特徴が見られます。たとえば「ワンワン」でイヌだけでなくウマ、ウシ、ネコなどのあらゆる四足動物を表現していたりします。言葉の適用範囲は、その子どもごとに、何かしらの規則性によって区切られているようです。

子どもが獲得する言葉は抽象的な言葉より事物名称が多いですが、事物名称といっても対象はいろいろな性質を持つので、実際にその言葉が何を表しているか学ぶのは簡単なことではありません。言葉を獲得し始めたばかりの子どもが仮説検証などの知的操作により言葉を獲得しているとは思えません。そこで何かしらの制約を用いて語の意味を推測している、という考え方が生じてきます。そういった考え方の一つに、「事物全体制約」、「カテゴリー制約」、「相互排他性」の三つの制約があります。事物に言葉を与えられたときに、それはまずその事物全体を指す言葉で、よく似たもの全般がそこに含まれ、一つの事物には一つの名前がつく、という制約を自然と利用しているというものです。しかしこういった制約を増やしていっても、まだ事物名称の獲得には不十分な情報しか与えられていません。

しかし不十分な情報しか与えられないにもかかわらず語彙は獲得されていきます。実際には明示的な名付け行為はそれほど行われておらず、さまざまの大人の行動を統制している大人の「意図」を読みとることが重要だと考えられます。実験結果から、わずか2歳になったばかりの子どもでも、大人が嬉しげに興奮した様子だったり、反対に悲しげでがっかりした様子など、バラエティーに富んだ手がかりを使いこなして言葉を獲得していることが示唆されています。

3.3 指さし・身振りの表出(参照文献1、第3章)

言葉の獲得に際して、音韻や語彙の使用と並行して現れるものに身振りがあります。子どもが言葉を獲得する際に、何かしらの役割を担っている可能性があります。

観察結果により、子どもは言葉を使う前から、指さしを使ってコミュニケーションを始めると考えられています。そして言葉を使用しはじめた後も、指さしや身振りは語彙の不足を補うものとして使用され続けます。一語文を発話する段階では、指さしがその言葉と組み合わせて使われることが多くなります。その後、二語発話が現れるようになると、子どもの身振りは言葉と独立していき、成人の身振りに近いものに変わっていきます。

4.発達心理学に共通して見られる(と思われる)考え方

まず、前ページ「従来の心理学における言語獲得理論」を振りかえります。従来の言語獲得の考え方として、観念連合による考え方と普遍文法による考え方が、参照文献である『新・子どもたちの言語獲得』において批判されていることを示しました。これらの考え方に代わる著者たちの考え方が、第2章から第4章まで(このページの2.1節から2.3節まで)で、すでに提示されています。

音韻の獲得では、養育者による強調した語りかけ方など、社会的な関わり合いが作用していること(2.1節)、語彙の獲得では大人の様子から読み取った大人の意図を手がかりにしていること(2.2節)が示唆されていました。さらに指さしや身振りがコミュニケーションを補うものとして使われているのでした(2.3節)。前ページで示したように、人間は周りの世界へと注意を向け他者の意図を知ろうとする基盤的能力を生得的に持っていて、他者とのコミュニケーションを通した相互作用により、他者と共有される世界を受け容れる、というストーリーが見出せます。

もちろん心理学という分野なので、このストーリーの裏付けとなる実験結果が存在します(次ページで一部紹介する予定)。しかしどの分野でも、実験というものはある考え方を実証するために行うもので、実験結果から示唆される考え方の方が実験の前よりあるものです。先入観により、複数の可能性のうちの一部のみを対象に実験を行い、他の可能性を無意識に排除してしまう、そしてそのことを自然科学の手法を導入したがゆえに気づかない、という危険性がつきまといます。どの分野の入門書でも、この危険性を頭の片隅に置いて読まないといけないでしょう。

5.参照文献

参照文献1:『新・子どもたちの言語獲得』(小林晴美、佐々木正人編著、大修館書店) 書評と要約

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と大学数学も入門を書く予定。いつの日か。

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