國分功一郎/山崎亮『僕らの社会主義』書評と要約 - 趣味で学問

國分功一郎/山崎亮『僕らの社会主義』書評と要約

評価:

あまり評価していない本の書評も挙げることにしました。自分が評価してなくても、書評を上げておけば、それはそれで他の人の役に立ちそうに思えます。

今回書評を上げるのは、國分功一郎と山崎亮の対談集『僕らの社会主義』です。國分功一郎は哲学者で、何冊か本を読んだことがあるので知っているのですが、もう一人の山崎亮はまったく知らない人で、建築関係の人みたいです。この本は2017年の本なので二人とも40代前半のころですね。対談集は数十冊くらい読んだと思いますが、今思い浮かぶ限りこの本が一番まとまりがないです。重要と思えることがないとかじゃないんですが、重要な情報が散らばってて、その情報を拾い集めて思考のまとまりと成すのは、かなり骨が折れそうです。今回は要約という形でまとめられそうにないので、章ごとに気になったところとか、感想を挙げて終わりにしたいと思います。

各部ごとのまとめと感想

はじめに ポストモダンの素敵な社会主義 國分功一郎

まず「はじめに」は國分功一郎で4ページしかなくて密度が薄く感じます。私はたいてい「はじめに」のところを立ち読みしてから購入を決定するんですが、國分功一郎の『ドゥルーズの哲学原理』を読んだ後だったので、吟味せずに購入してしまった記憶があります。「ポストモダンの社会主義」なので、近代の後の時代に必要な仕組みとして社会主義をもう一度検討しよう、ということでしょう。そんな風にはっきり書いてあるわけではなくて私の感想ですが。「いまの社会はイギリスの初期社会主義を生み出したあの19世紀に似てきているのではなかろうか?」って書いてあるので、間違いではないでしょう。また「イギリスの初期社会主義」が議論の対象となることが「はじめに」からわかります。

第1部 いまこそ大きなスケールで – 政治哲学編

第1部は「大きなスケールで」とあるように、今ある体制だけでなくあり得た体制まで視野を広げて考察しようとしています。そしてその考察のために、今ではほとんど参照されることのない19世紀の社会主義者が紹介されています。写真付きで紹介されている人の名前だけ挙げておきます。ロバート・オウエン、トマス・カーライル、ウィリアム・モリス、ジョン・ラスキン、エベネザー・ハワード、ヘンリエッタ・バーネットの六人です。具体的な内容は次章ですが、基本的に彼らは、大衆がもっと豊かな生活を送れるように、という動機で社会制度の構築を考えていたみたいです。「楽しく働いた結果としての美しい製品に囲まれた生活」を広めたい、と思ってたのだけど、美しくて値段の高い商品になって金持ちしか来なかった、というオチが待ってたようです。そこから社会体制自体を変えないと、と思っていろいろ考えたみたいです。

第2部 あったかもしれない社会主義 – 故郷イギリス編

第2部で具体例です。田園都市を設計して、実際に町を作って、協同組合とかも作ったらしいです。理由はわかりませんが、かなり失敗したけど、協同組合とか協同売店とか、一部上手くいって引き継がれていったものもあるようです。次に服装や建物の装飾について書かれています。一般の人も、豊かな装飾で着飾るべきという感じですが、貧しい人はどうやって?ということはあまり書かれてないです。ただし労働者協会とか労働者大学とか実際に作ったものもあるみたいで、教育を重視していたみたいです。

第3部 ディーセンシーとフェアネス – 理念提言編

第3部は理念提言編となってるんだけれども、ここがこの本で一番弱いんじゃないでしょうか。それがこの本がまとまりなく見える理由でしょう。抽象化された理念って大切ですよね。単純に労働の賃金が安いからではなく、つまらない仕事をしないといけないのが問題だ、みたいな話で、今となっては賃金が安すぎる、または職が無くて食っていけない方が問題になっているんですが、仕事のやりがいとかも重要というのは確かでしょう。

第4部 行政×地域×住民参加 – 民主主義・意思決定編

第4部は住民が参加しての行政の話です。住民参加というと昔は反対運動だったのだけど、住民が行政に作ってほしいものを提起するという形が出てきて、今度は住民がこういうの作るから許可をくださいと行政に言う状態になってきているんじゃないか、とのことです。これはこれでよいですね。ツルペタに補修されて魚がいなくなった川とか、この仕組みでもうちょっと魚が住めるように変えられるかもしれません。川とか山とかなんかツルペタにされること多いですよね。地球にアイロンをかけたい?(「フリクリ」)自分の脳ミソのシワまで伸ばさなくてよいんですよ。

追記

以上、ざっと本の内容をまとめてみました。参考になることはたくさんあるのだけど、なんかやっぱり本の完成度が低いので、評価は低くしときます。それとこの本、社会主義の新しい定義が書いてないんですね。全体主義のイメージがつきまとうのなら、やっぱり社会主義の意味を定義し直した方がいい気がします。「素敵な社会主義」とかのキャッチフレーズではなく。資本主義の方は「無限の更新運動」「無限の蒐集システム」「欲望を金に換えるシステム」「貨幣の自己増殖」等、いろんな定義の仕方があるわけで、でもどの考え方も根っこのところでつながっていると思います。自分の考えている社会主義がどういうものか説明しておくだけで、読後の印象はだいぶ違ってくるのではないでしょうか。やっぱり言葉の力ってすごいですね。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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