動物行動の分類 - 趣味で学問

動物行動の分類

1.動物行動とは

当たり前のように使われる「行動」という言葉ですが、実際には結構曖昧な使われ方をしています。とりあえず動物行動は「ある一定の法則性の当てはまる身体動作の連鎖」であるといえます。たとえば「捕食行動」なら、見つけた獲物の方向に体を小刻みに動かして口を向けて、一定の距離へにじり寄った後、直進とともに口を開けて獲物を吸い込んで、咀嚼しながら飲み込む、といったふうに細分可能かつ固定的な個別の身体動作の連鎖です。魚の捕食行動とかでも、身体動作として記述すると、上のようにかなり煩雑なものとなります。

一方で、熱いやかんを触ってしまって手を引っ込める、といった動作を行動と呼ぶべきか判断に困ります。こちらは「反射」とか「反応」の名で呼ばれていて、主に神経系があまり発達していない動物において動物行動として分類されています。

もう一つ重要な観点があって、その生体にとって何かしらの機能を持つ、というものです。進化の過程で今の姿としてあるので、環世界への応答において機能を有しない行動が発達したとは考えづらいです。とはいえ痕跡器官と同様の、すでに機能を有しなくなってしまった痕跡行動もあり得るのですが。

このサイトでは脊椎動物の行動を対象にしたいので、「反射」や「反応」は「行動」からは除いておくことにします。また特定の刺激に走行方向が規定される「走性」、身体の動きを伴わない「体色変化」なども対象から除かせてもらいます。そして動物行動の定義を上記二点より、下のように定義することにします。

  • 動物行動:ある一定の法則性を持ち、かつ生体の生存に何かしらの機能をもつ、身体動作の連鎖

2.動物行動の分類

「身体動作の連鎖」を動物行動とすると、個々の身体動作の連鎖の仕方でいくつかに分類できます。ローレンツの考え方に従って、「本能行動と欲求行動」、「シグナル行動とシンボル行動」の二つの対で分類してみます。

2.1 本能行動と欲求行動

本能行動と欲求行動の定義は次のものです。

  • 本能行動:経験による修正を蒙らない行動様式
  • 欲求行動:経験により修正を余儀なくされる行動様式

本能行動を生得的に種固定的な行動と言ってもよいのですが、より確実に定義すると上のような定義になります。本能行動は「捕食行動」、「逃避行動」、「求愛行動」など各種性に関わる行動などで、「刷り込み」などもここに含まれます。一見明確に定義できるように思える本能行動ですが、本能行動を形成する個々の行動成分に可変性があるなど単純ではありません。具体的な話は本能行動の説明のときにしようと思います。

欲求行動は本能行動に含まれない、「試行錯誤」、「条件付け学習」、「洞察的行動(知能行動)」などが含まれます。欲求行動は本能行動に比べて定義が難しく、ローレンツの定義には曖昧な部分も残っています。また経験的に可変といっても、個々の行動成分は固定的で、欲求行動は多くの場合、本能行動のつなぎ合わせの可変性で成立していると言えます。そのため単純に動物行動を二分できるというわけでもありません。こちらも具体的な話は欲求行動の説明の際に行うつもりです。

2.2 シグナル行動とシンボル行動

2.1節の「洞察的行動」には類人猿の道具使用などの高度な知能行動も含まれています。しかし一見人間と遜色ないように見える類人猿による知能行動も、人間の知性による行動とは大きな違いがあります。人間と他の動物の行動を大きく隔てる最大の要因は、「言語」であると考えられます。ローレンツは動物の意思伝達や行動を「シグナル行動」、人間においてのみ可能になった知能的行動を「シンボル行動」と定義しています。この「シグナル」と「シンボル」の言葉の違いの通り、動物では種に固定的な信号のやり取りが行われているのであり、人間では現実そのものからは抽象化された「象徴」により独自の知能行動が可能になっています。

類人猿の道具使用を例にとってみましょう。類人猿において,箱を積み重ねて台にしたり、棒を使って吊るしてあるバナナをとるといった複雑な道具使用が可能であることが報告されています。このことは類人猿において、一度学習された行動ならば、ある程度は学習された場所や状況と離れて遂行可能であることを示しています。しかし彼らの道具使用には、遂行のためのある条件が存在します。類人猿が箱や棒を使って吊るされたバナナを取ることができるのは、餌と箱や棒が同じ視野に入るときに限られており、箱や棒をどこか他の場所に探しに行って手にして戻ってからバナナを取ったりはできません。

ではなぜ人間は目の前に存在しないのに、別のところからとってきて使ったりできるのでしょうか。それを可能にしているのが「シンボル」である「言語」です。人間が「台」や「棒」として名指しているのは、目の前のその対象物そのものでなく、目の前の対象物を包含する範疇です。人間がある対象物を「台」として名指しているとき、「硬く上に乗ることで地面からの自らの高さを上げることのできる立体構造物」のうちの一つを指しておりこの役割を持つ対象物が同時にそして永続的に無数に存在していることを前提にしています。このように「言葉」が「シンボル」であることによって、人間は現在の知覚から比較的自由に行動を選択することができます。

3.動作機構が不明という問題点

本能行動と欲求行動にしろ、シグナル行動とシンボル行動にしろ、身体動作が連鎖していくその機構が不明という問題があります。たとえば「歩行」という行動は、前後左右の足を規則性を持って交互に上げて前に伸ばして下ろすという動作の連鎖で成り立っています。これらの行動成分はセントラルパターンジェネレータ(CPG)と呼ばれる脊髄の神経細胞の連絡で成立することが示唆されています。CPGは駆け足から走行への移行や維持にも関与することも示されています。しかし行動の基盤となる「歩行」でさえ、これ以上のことはわかっていません。これらの行動が複雑に組み合わさる動物行動では、なおさら機序の解明は困難になっています。このサイトでも神経生理学的知見のページを作成する予定ですが、動物行動を説明するに足る内容のものではないことを断っておきます。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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