環境との相互作用
1.環境
システムでないものすべてが環境に属します。一般に環境は、まわりのものすべてを指す言葉で、オートポイエーシス論でも同様です。オートポイエーシス・システムの本体は産出プロセスの閉域なので、構成素や構造も環境にあたります。また産出プロセスによって変形されて構成素となるもとのものも、環境に属します。通常使われる「環境」の語よりも、その対象が広くなっています。環境の一部を加工して構成素(これも環境の一部)を産出することで、自身が成立するための環境を自ら生成していると言ってよいでしょう。以上のことから、環境に内部と外部の区別をつけることはできなくなります。また、環境なくしてシステムが成立しないのは、他のシステムと同様です。
やはり細胞システムを例にとるのがわかりやすいでしょう。細胞高分子を生成するプロセスの連鎖が細胞システムなので、産出元の化学物質も産出された細胞高分子(構成素)も環境、それら高分子の集まりである細胞構造(細胞膜などの細胞小器官のまとまり)も環境です。人間が観察できるのは構造体としての細胞なので、細胞の外と内の区別ができるのですが、システム本体である産出プロセスにとっては、細胞膜のうちと外の両方が同じように環境です。産出プロセスが連鎖していけるのは、細胞膜に区切られた構造が成立しているからなので、自身が成立可能となる環境を自ら作り続けていることになります。
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2.相互浸透
オートポイエーシス・システムは自らの作動で自己と環境を区切り続けています。自己と環境が最初から区切られている場合に比べて、自己と環境との間の影響の及ぼし合いについて考えることが、必然的に困難になります。その作動においては、環境の一部を加工して構成素(これも環境)として産出しており、この事態を踏まえて一般に考えられている環境とシステム間の作用とは違う言葉が必要となってきます。
オートポイエーシスにおける環境との相互作用は、「相互浸透(Interpenetration)」の語で表現されています。先ほど環境として挙げた産出元と産出された構成素のみならず、システム以外のあらゆるものが、環境としてシステムとの間で相互浸透が可能です。オートポイエーシス・システムは自律性により何と相互浸透するかがその作動によって決定するため、作動するまでは何が環境として相互浸透するか決定できません。ただし環境なくしてシステムが成立しないのは、オートポイエーシス・システムも同様です。
一般に考えられているシステムでは、環境からの影響で作動状態が変化することを作用と言っています。生物学を例にとると、環境からの生物への影響が作用(環境作用)で、その逆に生物から環境への影響が反作用(環境形成作用)です。反作用は単一のシステムではあまり重視されていないようで、生物群集が環境へ影響を及ぼす場合、例えば植物群落の働きにより大気組成が変化するようなスケールで考えられることが一般的です。繰り返しになりますが、オートポイエーシス・システムでは産出元も産出物もそしてそのまとまりの構造も環境に属しています。そして環境を巻き込みながら作動し、自身を成立可能とする環境を自ら作りあげるので、環境からの作用も環境への反作用もほとんど同時かつ同等のものです。一般の作用・反作用だけでなく、このようなオートポイエーシス・システム独自の環境間作用を含めて、相互浸透の言葉が定義されています。
3.攪乱
相互浸透は相互に「作用すること」であり、その結果システムまたは環境に起きる変化を「攪乱(Irritation・penetration)」と呼びます。
ただし相互浸透と明確な区別をつけずに使用している場合もあります。
4.環境と相互浸透の定義
以上より、環境と相互浸透を以下のように定義します。
- 環境:システム本体(産出プロセスの閉域)以外のすべて。
- 相互浸透:オートポイエーシス・システムと環境との間の相互作用。環境からの作用と環境への反作用は同時であり、同等である。
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