構造的カップリング - 概念 - 趣味で学問

構造的カップリング

1.構造的カップリング

  • 定義:要素システムが複合して高次システムを形成し、高次システムは新たなオートポイエーシス・システムとなり、要素システムもオートポイエーシスを維持し続けること。このとき高次システムは要素システムを構成素とするのではなく、新たな構成素を設定して新たなオートポイエーシス・システムが実現する。

少し定義が長くなってしまいましたが、構造的カップリングとは「複数のシステムが自身の自律性を確保したまま新たなシステムが成立すること」です。元になった複数のシステムがなければ新たなシステムも存在しないのですが、それでも元のシステムと新たなシステムは自律的な別のシステムです。新たなシステムが成立したとき、それぞれの元システムはお互いを環境として相互浸透しており、元のシステムと新たなシステムの間でも、お互いを環境として相互浸透しています。

複数のシステムの構造的カップリングにより新たなシステムが成立しているので、両者は部分と全体の関係にあるように見えますが、両者がオートポイエーシス・システムである限り部分と全体の関係ではありません。ただし元のシステムが全て消失してしまうと新たなシステムも消失してしまうので、新しいシステムは元のシステムに依存していることになります。依存の言葉の定義は次の通りです。

  • 依存:構造的カップリングしている場合において、元のシステムのどれか(いくつか)の消失が、必ず新たなシステムの消失を招く場合、後者は前者に依存しているとみなす。

2.システム分化

  • 定義:あるシステムの作動を通じて、別のオートポイエーシス・システムがそれ自身のシステム・環境差異を生じ、差異分化して実現すること。

構造的カップリングの後、そのシステムの作動でまた新たにシステムが成立することを、システム分化と呼びます。全体から部分が新たに生じたように見えますが、やはり二つのシステムは全体と部分の関係にはなく、両者とも自律的なオートポイエーシス・システムです。システム分化は多層化が可能なはずで、さらにその後構造的カップリングするなど、さまざまな可能性が考えられます。

3.構造的カップリング概念の歴史的経緯

構造的カップリングの定義は人によって異なっていて、上の定義は河本英夫・山下和也によるものです。構成素の集まりがまとまりとなって構造となるように、システムの集まりがまとまりとなって新しいシステムが成立する場合が構造的カップリングです。新しいオートポイエーシス・システムが成立したとき、そのシステムがどのようなものか見定めるには、構成素が何であるかを考える必要があります。新たに成立したシステムの構成素をどう考えるかで紆余曲折がありました。

構造的カップリングという概念の元になった事象は、細胞システムどうしによる多細胞システムの成立です。個々の細胞システムがオートポイエーシス・システムだとして、それらを元に成立する多細胞生命システムもオートポイエーシス・システムだとすると、元のシステムと新たなシステムの関係が問題になります。細胞システムの集まりが多細胞生命体システムとなるとき、多細胞生命体システムの構成素は何にあたるのか、一番考えやすいのは、それぞれの細胞システムが構成素であることです。しかし各細胞システムもオートポイエーシス・システムであり自律性を持っているので、産出される構成素が自律性を持つということがどういうことか、よく考えなくてはなりません。細胞システムでも重要な問題ではあるのですが、元のシステムを構成素とすることの困難は、社会システムを考案する際にあらわれました。

ここで社会システムをオートポイエーシス・システムと考えて、上のシステムと構成素の関係を当てはめて、社会システムの構成素を個々の人間システムやその構造である身体とすると、個々の人間は社会システムに従属することになりかねません。チリで軍事独裁政権を経験したマトゥラーナ・ヴァレラにおいて、この考え方は許容できるものではありませんでした。突破口となったのはルーマンの考え方で、ルーマンは社会システムの構成素を人間そのもの(個人システムやその構造である身体)ではなくコミュニケーションとしました。社会システムとコミュニケーションについては、後のページで説明します。これならば個人と社会システムは、別個に自律して存在し得ることになり、個人の自由という概念を守ることができます。

関連ページ:社会をシステムとしてみるルーマンの社会システム論

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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