世界像(オートポイエーシス論) - 趣味で学問

世界像(オートポイエーシス論)

1.世界像

類人猿ははじめての場面でも、洞察により台を使って手の届かないバナナを取ることができます。このとき類人猿において一瞬、現在知覚している表象から離れた想像的な表象、さらに現在から未来へと向かう時間の次元を含む表象が成立して、それが洞察による行動を可能にしたと考えられます。

関連ページ:知能行動(オートポイエーシス論)

しかし類人猿の道具使用にはさらなる条件があって、彼らが箱や棒を使って吊るされたバナナを取ることができるのは,餌と箱や棒が同じ視野に入るときに限られています。一度学習した個体であっても,箱や棒をどこか他の場所に探しに行って手にして戻ってからバナナを取ったりはできません。

人間がどこか他の場所にある台や棒を取ってきてバナナを取ることができるのは,今この瞬間に知覚できないけれども今知覚している周りの環境と連続して世界が広がっており,知覚の範囲外の世界の方には台や棒が存在していると確信しているからです。今この瞬間を超えてあり続ける「世界」を可能にしているのが「言葉」です。哲学者の木田元は、言葉を用いることで人間独自に現れる世界の見え方のことを、「世界像」と呼んでいます。このページでは「世界像」とそれによる人間独自の知能行動に対して、オートポイエーシス論による記述を試みてみることにします。
関連ページ:人間の道具使用(22/11/17時点で未作成)

2.未来像と世界像

2.1 未来像と神経系との関係

類人猿の道具使用において現れ出ているであろう統合された知覚像を、「未来像」と名付けました。この「未来像」とそれによる知能行動の成立を、意識・認識の自己言及として記述していますが、この考え方がどれくらい適切であるかはまだ判断できていません。もっと単純に説明できる可能性があって、ここでは他の考え方による説明を試みてみます。
関連ページ:知能行動(オートポイエーシス論)

哺乳類では神経系の構造がかなり類似しているにもかかわらず、行動のレベルでは大きな違いがみられます。一般的な高等哺乳類(イヌ科・ネコ科動物、サルなど)と類人猿、さらに人間の間の行動の違いを、ここでは大脳皮質の量的な差異がもたらしているとして話を続けます。そうすると大脳皮質の拡張によって類人猿の洞察的行動が可能となり、さらなる拡張によって人間の世界像による道具使用が可能になっているはずです。

以下、仮定になりますが、類人猿の道具使用を脳・神経生理学的な知見と少しだけ紐づけして説明してみます。類人猿では大脳皮質の増大により、現在の知覚の成立に対して関与の度合いの低い領野が生じています。この領野は他の領野との関係により、現在の知覚表象を統合しかつ攪乱する機能を持ちます。もともと知覚そのものが、認識としては、いくつもの種類の知覚(五感などの形式)の分離と癒合を繰り返す形で現れています。類人猿において拡張された領野が行うのは、この分離と癒合の度合いを拡張し、一瞬ではありますが新たな行動を惹起可能とすることです。この瞬間において、行動が拡張され快が生じているだけなのか、それだけではなく新たな統合された認識である未来像が生まれているのか、類人猿ではなく人間である我々には知る術がありません。しかし人間の認識の拡張度合いから考えて、未来像の生成が生じていると考えることにします。

以上を図1のように図示できます。


類人猿で拡張された脳領域において、身体と神経系の循環への関与の仕方やその度合いが変移することで、未来像がときには生じ、それによりときには新たな行動連環が生起します。図1は欲求行動の図と考え方は同様です(本能行動と欲求行動、図2)。

2.2 世界像への拡張

世界像、つまり言葉によって現れてくる人間にとっての世界も、上記未来像と同様の考え方で記述することができます。しかし我々人間の認識は、現在の知覚に限らず、それと重なるように過去や未来の像が浸潤してきます。そこで言語野の拡張により認識が分化して、それら全体の構造が世界像という認識形式として現れると仮定してみます。図2(a)が未来像と同様に考えたときの図式で、図2(b)が認識の分化による図式です。

図2(b)におけるそれぞれのシステム(円を描く矢印)はシステム分化により生じています。言語野という領域の拡張とそれに伴う世界像の成立により、現在成立している認識は、それぞれ個別の感覚へと分離し、かつその癒合として意識に現れます。全体の構造である世界像は言語野が機能しなくなると瓦解し、それに伴って個別に分化して現れていた認識も再統合されて、異なる分化状況を呈します。その際、統合の度合いも分化の度合いも減退することになります。
関連ページ:構造的カップリング

図2(b)の図式は、メルロ=ポンティによる階層的な身体の統合化の考え方をもとにしています。現時点ではこれ以上明確に関係性を引き出すことができませんが、「哲学入門」の「現象学」ページ作成後に、関連性を確かめる予定です。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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