古代ギリシアの民主主義 - 趣味で学問

古代ギリシアの民主主義

「民主主義」について何かしら考えるにあたって、古代ギリシアの民主主義を無視するわけにはいかないでしょう。とはいえ古代ギリシアの民主主義が現代の民主主義と同じでないことは、高校世界史をかじっていれば知っていることです。このページではまず古代ギリシアの民主主義の発展の歴史をまとめ、現代の民主主義を考える上での手がかりを探ってみることにします。

1.古代ギリシアの民主主義発展の歴史

古代ギリシアの民主主義にも、当然発展の歴史があります。まずはその経緯を簡単に見ておきましょう。

ギリシアのポリスは都市国家であることから、官僚や常備軍、宗教的支配を担う神官を必要としませんでした。そのためポリスの市民たちがみずから国政を担い、戦争で武器を取り、政策の決定を下すことになります。ポリス市民の中核を担ったのは、都市の周辺領域の田園で奴隷農業を営む農民です。ポリスにも貴族はいたのですが、彼らは同じ経済基盤に立っており、両者はまったく別の存在ではありませんでした。

当初は都市に集住した貴族たちが政治・軍事・司法の主導権をにぎっていました。ただし、民会や裁判に一般の市民たちが集まって、民会の決定や判決に少なからず影響を与えたと考えられています。その後、貴族たちから市民へと主導権が移り変わっていくのですが、そこには戦争での市民の貢献が密接に関わっています。まず重装歩兵の装備を自弁でそろえられる市民が戦争で貢献し(マラトンの戦いなど)、サラミスの海戦では、自弁で装備を整えられない一般兵も軍艦を漕ぐことで貢献することで、市民の資格はさらに拡大していきます。

そのように貴族たちから市民へと主導権が移り変わっていくのですが、そこで発展していく政治制度が民主主義です。この政治制度が成立するにあたり、重要な契機となった改革が二つあります。まずソロンの改革を挙げることができて、ソロンが行ったのは債務の取り消しと、債務奴隷からの解放です。これは中小農民の保護を目的としたもので、平民層の政治的発言を強化する改革と合わせて、結果として平民層からも国政の中枢に参加する道が開かれることになりました。しかし彼の改革の後も貴族と平民の対立は残り続け、両者の対立が深まる中で実権を握ったのが僭主と呼ばれるペイシストラトスです。ペイシストラトスは武力によるクーデターでアテナイの統治権を獲得しました。ペイシストラトスは貴族の出身でしたが、彼をその地位につけたのは平民の支持でした。彼の治世は非合法な独裁政治ではあるのですが、彼の政治は支持基盤である中小農民の保護を積極的に目指すものでした。彼の政治自体は善政と呼べるものでしたが、その息子ヒッピアスの圧政を経験することで、独裁者の治世が長期的に見ればけっして望ましいものではない、という市民の政治判断が醸成されることになりました。

続くのがクレイステネスの改革で、僭主ヒッピアスを追放し、市民を血縁や地縁によるしがらみから解放し、再編された市民団を都市の政治と直接結びつけるものでした。クレイステネスは特別な権力を持った人物ではなく、彼の改革は一市民の資格で民会に提案し、それが採択された結果だと考えられています。

2.古代ギリシアの民主主義の特徴

次に古代ギリシアの民主主義の特徴をまとめてみます。箇条書きすると下のようになります。

  1. 民会による決定:最終的な決定の権限を持つのが民会。これはごく一般の市民が参加するもので、市民は主に都市の周辺で農業を営んでいる人たち(女性、居留外国人、奴隷は除く)。
  2. 参加と責任のシステム:民会に出席して発言することそれ自体が、市民として誇るべきことであり、その務めであると考えられていた。評議員は任期が終了しても、任期中の行いについて、厳しい審査を受け、政治権力者が不当な権力を行使しないように、権力者に説明などの責任を問う仕組みが成立していた。
  3. 平民層の政治参加:ソロンの改革とクレイステネスの改革による、平民層の発言強化と血縁や地縁によるしがらみからの解放。

他にも重要な特徴はありますが、現代の民主主義を考察するという目的には、このあたりの特徴が重要でしょう。

3.現代の民主主義へと継承されるもの

古代ギリシアの民主主義の歴史と特徴から、現代の民主主義を考えるための重要なヒントが得られます。民主主義の言葉からもわかる通り、市民の直接かつ積極的な政治への参加が前提です。それを可能にしたのは、多数の市民の経済的な自立です。さらに政治腐敗を防ぐための仕組みが整備されています。

一方で、奴隷農業によって市民の政治への参加が可能になったとか、女性や奴隷が政治の場から排除されていたからこそ直接的な政治が可能になったといった、現代では成立しない条件もそこにはあります。また古代ギリシアでは衆愚政治や政治腐敗を防ぐ仕組みが発達しますが、この問題は現代の民主主義で深刻な問題となっています。現代の民主主義を考えるためには、現代の社会背景に合わせた理論構成が必要でしょう。

参照文献:宇野重規『民主主義とは何か』(講談社現代新書)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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