ベクトルの内積 - 趣味で学問

ベクトルの内積

ベクトルで最も利用されているものの一つが内積です。名前に「積」と付いてるように、ベクトル同士の掛け算にあたります。もう一つの外積はとりあえず高校数学では忘れてもらってよいです。

内積がよく利用される理由の一つは、二つのベクトルがどれだけ同じ方向を向いているかの指標になってくれることです。そしてもう一つは成分による計算が簡単なことです。数学においては計算が簡単という性質はとても重要です。

ベクトルの内積の式と成分計算の方法を先に示しておきます。

\begin{align} a \cdot b=\left|\overrightarrow{a}\right|\left|\overrightarrow{b}\right|cos\theta…①\\ \overrightarrow{a}=(a_1,a_2)、\overrightarrow{b}=(b_1,b_2)のとき、a \cdot b=a_1 \times b_1 + a_2 \times b_2…②\\ \end{align}

内積に関しては理屈抜きでこれらを覚えて使えることができれば問題ありません。とはいえよく利用される理由を計算式が示してくれているので、もうちょっと説明してみます。

内積の定義式①より、内積は二つのベクトルの大きさとその間の角によるcosの値をかけたものです。ひとまずベクトルの大きさは置いておいて、ベクトル間の角θとcosθの関係をみてみましょう(図1)。

cosの値は角度が0で最大の1、大きくなるごとに減っていって90°(π/2)で0、180°(π)で最小の-1というふうに連続して変化していきます。二つのベクトルの角度が0になるのは、二つのベクトルが同じ方向を向いているときです。90°なら直角に交わる場合で、180°なら逆方向を向いていることを示します。つまり向きが近いほどcosが1に近くて、向きがずれていくにつれてcosが小さくなります。そして直角のとき0、さらに逆向きになるにつれてcosは-1に近づいていきます。①式を変形して

\begin{align} cos\theta=\frac{\overrightarrow{a} \cdot \overrightarrow{b}}{\left|\overrightarrow{a}\right| \left|\overrightarrow{b}\right|} \end{align}

の形にしておけば、ベクトルの内積とベクトルの大きさを代入してcosの値を出せば、これだけで二つのベクトルの向きの近さを数値表現することができます。この「数値で性質の度合いを表現できる」ということが数学概念を利用する上でとても効いてきます。工学分野などでどのように利用されるかは、また別の機会で示してみようと思います。

それから、内積の成分計算の簡単さは式を見るだけでわかるでしょう。たとえば二つのベクトルが(1, 2)と(3, 2)のように成分がわかっているのなら、内積の計算は1×3+2×2=7です。ベクトルの大きさを計算する必要もcosの値を調べる必要もありません。ベクトルの成分計算による②式と①の計算式が同じというのが少し不思議に思えますが、x成分どうし、y成分どうしをかけて足しているので、具体例で考えてみるとなんとなくはわかります。証明は余弦定理を使ってcosθを求め、二つのベクトルの大きさとともに①式に代入して計算していくことで、②式と同じ式であることが示せます。具体例で確かめてみるのも証明をしてみるのも結構な手間なので、ここでは省略させてください。「調べてみたらこういう便利な性質が見つかったので利用することにした」、それくらいのことだと思っておいてかまいません。

また高校数学の問題では、上で言ったこととは別の利用の仕方がよく出ます。ベクトルを一通り説明し終わってから、よくあるタイプの問題を一題解いてみようと思います。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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