アフォーダンス概念からの展開 - アフォーダンス - 趣味で学問

アフォーダンス概念からの展開

「環境が動物に提供するもの」を意味するアフォーダンスは、行為というものが動物と環境の接触において初めて成立するという、われわれが忘れがちな前提・原則を思い出させてくれます。動物の行為がどのようなものかは、環境との接触で行為が現れる瞬間を観察することで、よりはっきりとした輪郭を現わしてくれるでしょう。

ギブソンは生態心理学を構想途中で亡くなっており、「アフォーダンス」概念の展開はその途上にあることから、この概念が彼の思想を代表するものであるかは疑問が残ります。「アフォーダンス」の日本への紹介者である佐々木正人は、単なる思想の紹介者ではなく、そこから新たな思想を紡ごうとしていますが、佐々木正人においてもやはりその思索の展開の途上にあります。このホームページにおいて、最終的には動物行動学やゲシュタルト・クライス、オートポイエーシスとの接続を図りたいのですが、その前に佐々木がここまで展開してきた思想をまとめておく必要がありそうです。現時点でもっとも彼の考え方がまとまっていると思われるのは『アフォーダンス入門』ですが、この本もやはり発展途上の段階で書かれたものであるため、その全体像を掴むのは容易ではありません。

まず『アフォーダンス入門』において、ギブソンの考え方を引き継いで佐々木が独自の議論を展開しようとした、第四章から第六章の内容を簡単に確認しておきたいと思います。

1.『アフォーダンス入門』第四章から第六章までの概要

第四章から第六章までの内容を、各章ごとに簡単にまとめてみます。

1.1.第四章まとめ

第四章を簡単にまとめると以下のようになります。

我々の知覚のシステムは身体全体を組織化しており、身体を作動させることで情報を得ています。例えば姿勢制御で最も重要な重力への定位では、平衡胞による直接的な知覚と同時に、地面に直接接触する身体の底面からの情報をもとに、地面の傾きという環境の不変な性質を、身体の動きと同時に知ることが出来ます。ミミズやテニスプレーヤーは、道具と身体が一体となった運動で初めて現れる、慣性モーメントのような不変項を探し出して情報を得ていると考えられます。身体は持続して環境と接触することで、認識とよばれる世界との関係を調整する働きを担っています。動物は自身の行為によって環境の中にある意味を作り出し、それを探索することにおいて行為がはじまっていきます。

以上より第四章の主題は、自身の利用する情報を自身の動きで作り出し、身体全体が一体となった知覚システムで受容することで、行為がはじまっていく、ということと考えられます。

1.2.第五章まとめ

第五章のまとめは以下の通りです。

動物は「ブルート・ファクツ(ありのままの運動)」と呼ばれるオリジナルな運動を持っています。各個体はブルート・ファクツのプールの中から、それぞれに環境との作用で適応的な行動を生み出していきます。個体の多様性から少し視点を広げてみると、多様に変化した個体どうしは、相互に連関してより大きな多様性のプール(集まり)をつくりあげており、これが生きものの個体群がこの環境で実現していることです。動物は変形された運動に見えるブルート・ファクツのわずかな現れや変形の度合いをもとに、その個体にとっての意味を読み取っていると思われます。

第五章では、はじまりとしての運動のプールがあって、それが環境との接触により変化し、環境適応的な行動として現れている、と考え、生得性と環境による変化の関係に具体的な説明を加えようとしているようです。

1.3.第六章まとめ

第六章のまとめは以下の通りです。

自分の身体とその外部の情報は「切り離せないかたちで共存」しており、環境と自己が知覚経験において二重になっています。知覚の多重化は単純な足し合わせではなく、二つのシステムの関係は組み換えられ、もとのシステムも変化して、システム間の関係の本質的な変化が起こっています。動物には発達の過程があり、可能な運動のプールの中から、実際の運動のパタンが現れてきます。我々は環境に対し、一つの身体ではなく、多数の動きの集合で出会っており、「ぼくらがこころとよんでいることの本当の姿は、この進行する多数との関係に起こりつつあることなのである。」(佐々木正人『アフォーダンス入門』第六章)

2.第四章から第六章までの結論

最終段落の一文「ぼくらがこころとよんでいることの本当の姿は、この進行する多数との関係に起こりつつあることなのである。」が、佐々木が導き出した結論であることは間違いないでしょう。第四章から第六章までを、この結論に収束させる必要があります。ひとまずこの三つの章を次のようにまとめることができます。

動物は環境から意味を読み取りながら行動を決定している。そしてその意味は、ありのままの運動を持ち多数のシステムの集合である身体が、自身の動きそのものによって環境との境界において作り出している。こころとはこの境界で起こっている、進行しつつある多数との関係のことである。

これからもう少しくわしく佐々木の考えたことを紹介していく予定です。最後もう一度佐々木の思索全体を振り返りたいと思います。

  • 参照文献:『アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか』(講談社学術文庫)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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