あるということ - 古代 - 趣味で学問

あるということ

1.あるならば、生まれず、滅びない:パルメニデス

言葉が単純な思考の外皮ではない以上、哲学的思考を紡ぐ文体も、その思想と切り分けることはできないでしょう。パルメニデスは神話的な表現形式に自らの思想を託したようです。探求の道は、「ひとつは真理の道であり、他のひとつは不毛な誤謬への道」だとすると、「その区別を説き、前者をあかすのは女神であって、パルメニデスそのひとではない。神話的な響きを残す韻文がえらばれたのは、おそらくはそのためであろうと思われる」(『西洋哲学史 古代から中世へ』第3章)。神話的な響きを残す彼の哲学は、やはり神への愛を奥底に持つソクラテスへと受け継がれていきます。

パルメニデスには、「あるならば、生まれず、滅びない」といった思考を読み取ることが可能です。これだけだとよくわからないですが、同一性とかと一緒に考えると、ちょっとだけ、何を言おうとしているのかわかる気がします。自転車を野ざらしにしておくと、一年もすればサビだらけになってしまいます。一年前の姿とは違う姿になったけれど、でもやはり同じ自転車です。異なる姿のものが同じものであるとはどういうことでしょう。「時間の経過による変化」という概念を導入すればよいのですが、むしろ上のことが腑に落ちるように、時間や変化の概念をそれぞれの人間がそれぞれに発明しているようにも思えます。もし「あるならば、生まれず、滅びない」のであれば、異なるものが同じであるとはどういうことか、などと考える必要すらないでしょう。「なにかそれは、生まれることも滅びることもありえない。変わり移ろうことのない、おなじものでなければならない。それはあるものであり、あらぬものではないからである」(同上)。

2.アキレスと亀のパラドックス:ゼノン

パルメニデスの思考を擁護するための議論をエレア学派が発展させ、ゼノンやメリッソスがその代表者だったようです。「動」を否定したと言われるゼノンはアキレスと亀のパラドックスで有名です。後ろから足の速いアキレスが亀を追いかけるとき、普通ならそのうち追いついて追い越すと考えるところです。アキレスが最初亀にいたところに着いたとき、亀はいくぶんか先に進んでいます。次にその亀がいたところにアキレスが到着したとき、やはり亀は先に進んでいます。そうすると永遠にこの繰り返しで、アキレスが亀に追いつくことがないように思えてきます。

アリストテレスはゼノンの論法を否定しており、その解決策は、距離と時間を一対一対応させて無限の試行で解くものです。高校数学を使って考えてみます。亀が秒速1m(例えなので亀の速さは流してください)、アキレスが秒速2mで、亀の2m後ろから亀と同時にアキレスが出発するとします。まあ、2秒後に亀が2m、アキレスが4m進んで亀に追いついて、そしてそのまま追い越しますよね。アキレスが最初亀にいたところに一秒後に着いたとき、亀は1m先に進んでいます。次にアキレスがその地点に1/2秒で到達したとき、さらに亀は1/2m進んでいます。さらにアキレスが…以下無限に続き、永遠に追いつけないことになります。
亀の進む距離は$$1+\left(\frac{1}{2}\right)+\left(\frac{1}{2}\right)^2+\left(\frac{1}{2}\right)^3+…+\left(\frac{1}{2}\right)^n=2\left\{1-\left(\frac{1}{2}\right)^n\right\}$$で、n→∞にすれば2mですね。
アキレスが進む距離は$$2+2\left(\frac{1}{2}\right)+2\left(\frac{1}{2}\right)^2+2\left(\frac{1}{2}\right)^3+…+2\left(\frac{1}{2}\right)^n=4\left\{1-\left(\frac{1}{2}\right)^n\right\}$$でn→∞にすれば4mです。無限に試行を繰り返すとして極限をとれば、確かに2mの差を埋めてアキレスが亀に追いつくことが示せます。でも、わざわざ等比級数の話を持ってこないといけない話でしょうか。

19世紀末から20世紀初頭に活躍したフランスの哲学者ベルクソンは、「エレア学派の論法は、質的で不可分な運動を、等質的で可分的な空間と取りちがえ、運動とその軌跡を混同したことに由来する。運動を、連続する映画のフィルムのようなしかたでとらえることはあやまりである。静止のまえに運動が、存在に先だち生成がある。」(同上)と説いたとされます。個人的にはベルクソンに同意したいのですが、彼の回答が本当に解答になっているか、いまだ明らかではありません。

  • 参照文献:熊野純彦『西洋哲学史 古代から中世へ』(岩波書店)

<< 哲学の始原 古代原子論 >>

ホーム » 哲学 » 古代 » あるということ

むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

CAPTCHA