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古代の哲学まとめ

中世の哲学の前に、古代の哲学の特徴と流れをまとめておきたいと思います。古代の哲学はプラトンやアリストテレスの時代を中心にして、おおまかには図1のような区分を入れることができます。

ギリシア古代の自然的思考から、ソクラテスの無限のアイロニーを介して、プラトンとアリストテレスによるイデアや形相による存在構造の転換がおこり、存在への思索は、ヘブライの秘教的な思考を巻き込みながらキリスト教神学へと流れ込んでいきます。

1.「哲学」の始原

「哲学の祖」と呼ばれるタレスですが、厳格な意味では「哲学」と呼ばれる思索に特有の性質を保持していないので、「哲学」を生み出したというよりは、現存する最古のギリシア思想家というべきでしょう。タレスを始まりとするフォアゾクラティカー(哲学以前の思想家たち)は、世界のはじまり、世界の原理を問うたことにおいて、神話的思考との間に確かな違いが生じています。

タレスを筆頭にミレトスの哲学者たちは、生成変化する自然(ピュシス)を源にして、世界を世界としてあらしめる反復や循環を成すものを探し求めています。タレスやアナクシマンドロスたちは、世界のはじまりに、自然の反復や循環を可能にするそれ自身は変わりえないものを見い出し、ピタゴラスは音階をもたらす比(ロゴス)による秩序を、ヘラクレイトスは相反するものの調和を見ていました。

一方、パルメニデスや彼に連なるエレア学派の人たちは、「あるならば、生まれず、滅びない」と考え、生成変化や「動」を否定しました。世界のはじまりがそれ自身変わりえないのならば、変わりえないものから何かが生まれ消滅するということは、確かに起こりえないことのように思えます。アナクサゴラスやエンペドクレスは、「おなじものが変化することはありえないのではないか」というエレア学派の問いに対し、変わることのないものが多と動さえも含んで存在し、離合と集散や混合と分離により、同じものが異なる姿で現れる、と考えました。彼らの思考には現代の原子論的化学論と類似するところがあります。古代において原子論について一貫した議論を行ったのは、レウキッポスとデモクリトスです。分割をゆるさない原子の配列や位置によって多様な現象を説明する古代原子論が、現代の原子論と同様なものかはよくわかりません。

2.存在の二つの位相

ミレトスの哲学者から古代原子論までにおいて、世界のはじまりにその多様なありようをもたらすはたらき・原理を見ようとしていたとみなせます。その中ですでにパルメニデスにおいて、一般に考えられている世界のありようそのものを否定する考え方がみとめられます。この否定性はソクラテスの無限否定性へと連なっていきます。この無限否定性は結果として、プラトンとアリストテレスによる新たな存在の思考をもたらすことになります。

2.1 ソクラテスのアイロニー

ソクラテスは知者として知識を提示するのではなく、「自分は何も知らないと思っている」と言って知の探究を貫いた人、愛知者です。彼の用いたエイローネイアー(アイロニー)は、無知を装うことで相手の無知を悟らせるにとどまらず、それまでのギリシア古代の自然的考え方すべてを否定するほど徹底したものでした。

2.2 プラトンのイデア論

ソクラテスはギリシア人のものの考え方の根底にあった自然的思考を、おそらくは政治的な理由から否定しようとしたわけですが、その意思を引き継いで新たな思考を提示したのは、晩年の弟子であったプラトンです。プラトンは有名なイデア論を、まず政治理論として提示したのですが、彼の意思に反して存在的な原理として引き継がれていきます。プラトンのイデア論において、あらゆるものは、制作者が魂によって触れることのできるイデア(原型、理想的形態)を、質料(ヒュレー)に写し取ることで形作られたものです。

2.3 アリストテレスの形而上学

イデア論は明らかに制作的な存在論であり、この新しい存在論を引き受けながら古代の自然的生成的存在論との融合を図ったのがアリストテレスです。プラトンのイデア論において、すべての個物は、イデアから借りてこられた形相(エイドス)と一定の質料(材料)との合成物です。アリストテレスは、質料とはなんらかの形相を可能性としてふくんでいるもの、「可能態(デュナーミス)」の状態にあるものだと考え、その可能性が現実化された状態を「現実態(エネルゲイア)」と呼びます。彼は「質料-形相」という関係を「可能態-現実態」という図式に読み替え、制作物のみならず自然の存在者にも適用可能な存在論を考え出したことになります。

アリストテレスの考え方はギリシア古代の自然的考え方に戻ったように思われますが、存在者の運動の最終目的として「純粋形相」を考え、形相(本質存在)と質料(事実存在)の区別を引き継いだ点において、アリストテレスはやはりプラトンの後継者なのです。

2.4 プラトンのイデア論とアリストテレスの形而上学の対応関係

イデア論ではイデアをもとに制作されるので、イデア→形相→質料の順に存在の様態が変わっていくとともに、存在の重みがこの順に与えられています。アリストテレスの形而上学は自然からの生成的なモデルなので、質料(可能態)→形相(現実態)→純粋形相の順に様態の変化が考えられています。様態の変化の順序は逆になっているので、アリストテレスはプラトンのイデア論を逆転させたようにみえます。しかしアリストテレスの形而上学には目的論的な趣きがあって、彼はイデアは想定しないのですが、純粋形相が最終目的としてイデアの位置を占めているとみなせます。そうすると存在の重みは純粋形相→形相(現実態)→質料(可能態)の順になって、プラトンとの類似性が見えてきます。

3.イデアから神へ

プラトンとアリストテレスの思想は、その後の哲学的思索へ色濃く引き継がれていきます。アリストテレスの死後も哲学の中心地であったアテナイでのストア学派、ギリシア・ローマ系とヘブライ系の思考がお互いに混ざり合う時代の新プラトン主義、新プラトン主義を導入した教父哲学、これらいずれにおいてもプラトンとアリストテレスからの強い影響を見て取ることができます。一方、ヘレニズム期から古代ローマの時代においては、ピュロンの懐疑論やアウグスティヌスの時間論など、近代から現代の哲学を先取りするかのような議論も見られます。

彼らの議論にはイデアや形相の概念が用いられており、ギリシア・ローマ哲学の橋渡しを担ったボエティウスも同様です。中世哲学において有名な普遍論争の原点はボエティウスであり、その議論はまさにプラトンのイデアとアリストテレスの形相の存在を問うものです。プラトンとアリストテレスの思想は中世のみならず近代、現代の哲学へと受け継がれていきます。

  • 参照文献1:熊野純彦『西洋哲学史 古代から中世へ』(岩波書店)
  • 参照文献2:木田元『反哲学史』(講談社学術文庫)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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