多細胞生命体システム - 三つのシステム - 趣味で学問

多細胞生命体システム

1.多細胞生命体システム

細胞システムについて議論を行ったので、多細胞生命体システムについての議論が可能になります。考え方は幾通りもあるのですが、細胞システムの構造的カップリングで多細胞生命体システムを考えることは共通します。多細胞生命体は群体を形成する生物から、節足動物や脊椎動物までの高度に器官分化した動物まで、かなりの形態の違いを含む多数の種が存在します。もちろん植物も含めなければなりません。これらすべての生物種を対象に最初から考えるのは難しいため、多細胞生命体システムを、器官の分化したある程度の高等動物に限定して話を進めます。山下和也による多細胞生命体システムに対する考え方を下に示します。

  • 多細胞生命体システム:細胞システムの構造的カップリングによる新たな生命システム。新たな構成素は器官であり、構造として身体が形成される。

細胞システムを元にして、一階層上の新たなシステムが成立しているので、細胞システムと多細胞生命体システムは、お互いを環境として相互浸透します。多細胞生命体システムもオートポイエーシス・システムなので、「個体性」、「自律性」、「単位体としての境界の自己決定」、「入力・出力の不在」の四つの性質を持ちます。四つの性質が成立しているか、簡単に考えてみます。

一つの身体という構造に閉じられて器官は成立しているので、その器官を形成する働きも一つの閉域としてあり、一つの個体です。次に自律性ですが、生命システムは自分の作動を自分で決定しており、「閾値」もその一例として考えることができます。受容器の違いも同様に考えてよく、例えば聞こえる音の波長の範囲は、生物種ごと、個体ごと、そのときの個体の状態に応じて違っています。単位体としての境界の自己決定は、細胞システムのところで示したように、細胞や身体という境界をシステムの構造として区切っているので、生命は自己の境界を自分で決めていると考えてよいでしょう。また部分がないという単位性については、身体と器官の関係を考えれば、身体と切り離されてしまえば器官は身体ではなく、機能を維持している限りで器官のまとまりとして一つの身体です。入力と出力がないことについては、入力と出力は構造である細胞と身体には確かに内外で出入りがあるけど、生成プロセスの閉域であるシステム本体では考える必要はないとしてよいでしょう。それから機械(アロポイエーシス・システム)に対する入力と出力のような関係にはないので、制御対象としての入力・出力は存在しないといえます。

関連ページ:細胞システム構造的カップリングオートポイエーシスの四つの性質

2.器官(構成素)を産出するはたらき(産出プロセス)は何か

1節の多細胞生命体システムの考え方においては、器官(構成素)を産出するはたらき(産出プロセス)とは何か、器官のもととなる基体は何かということが不明瞭です。例えば基体が細胞組織で、それを変形、変換することで器官となる、という考え方もできるのですが、そうすると細胞組織を器官として統合する働きとは何か、ということを考えなければなりません。

一方で、細胞組織や器官という概念は、身体を理解するために作り出されたという側面があり、一般に思われているほど自明な言葉ではありません。ただの細胞の集まりではなく「組織」や「器官」としてある、ということまで考えれば、物理的にひとまとまりであるということだけでなく、構成やはたらきをも含んだ抽象化された概念と考えてもよいでしょう。分節してその関係として理解するという、人間一般に共通する思考形態において、「組織」や「器官」なる概念が必要とされたというだけかもしれません。残念ながら、上の問いの答えとなるような考え方は、いまだ提示されていません。

<< 細胞システム 生命現象のオートポイエーシス論的説明 >>

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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