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動物が自ら作り出す意味

動物にはブルート・ファクツ(ありのままの動作)と呼ばれる、生得的に可能な動作のプールがあります。彼らは環境との関わり合いの中で、さまざまに変化したブルート・ファクツにより、環境と一体となった適応的な行動を見せています。そして我々に環境適応的と映るその行動は、彼らが自らの動きで作り出した環境からの「意味」を読み取ることで成り立っています。動物の行動とは、自らの動きとそれにより現れる意味の受容、さらなる身体動作による循環のことです。このページでは動物の全身のシステムが、自ら作り出した意味をいかにして受容しているのかを見てみます。

1.視覚のシステム

我々の「視るシステム」は、何かを凝視するときでも、頭は揺れているし、眼球を動かすために多数の筋が激しく活動しています。そのためじっと何かを凝視することと、自分の身体を移動させて情報を得ることは、本質的には同じ行為です。

多くの動物の動きは、光学的流動のパターンによってコントロールされていて、表面のキメの光学的な拡大や縮小の仕方と、動物の動きの変化がほとんど境界なくつながっているのがわかります。たとえばカツオドリのエサをとるための水中へのダイビングや、走り幅跳び選手の行う踏み切りでは、カツオドリやジャンパー自身が作り出す、光学的流動のパターンの変化が利用されています。

2.接触のシステム

姿勢に関して最も基本的なものは重力への定位です。動物のものより単純化された「平衡胞」(前庭に類似)のモデルで考えてみます(図1)。

この平衡胞という器官は身体の上部にあり、流動する液体で満たされた部分と、その中に浮かぶ「石のおもり」、そのおもりの動きを感知するために液体の中でゆれている繊毛からなっているとします。動物の体が傾くと、おもりと繊毛の接触パターンがかわるので、動物はこれらのパターンの変化から身体の動きを読み取り、さらにこれらのパターンの変化をうまく調整することで、体の向きを定位し、種々の行動を可能としています。

今度は重力の定位をもとに、地面への定位を考えてみます。地面への定位は、地面に直接接触する身体の底面からの情報が、さらに必要だと考えられます。地面の傾斜により、平衡胞のおもりの力と地面からの垂直抗力の方向に、絶えずずれが生じるので、このずれを用いて、地面の傾きという環境の不変な性質を、身体の動きと同時に知ることになります。

3.脊椎動物の身体制御

ベルンシュタインの運動モデルをもとに、脊椎動物の身体制御を考えます。骨は筋とリンクしており、すべての骨と筋は全体で一つのシステムとして動くことになります。脊椎動物は、定位のための情報を得る様々な器官が関係する、複雑なネットワークの振る舞いの変化から情報を読み取り、環境への身体の定位を行っています。

動物による身体制御は、筋と骨の性質から考える必要があります。筋は収縮するときに力を発揮するので、接続された部位を引っ張ることで身体制御を行っています。また身体を動かす場合だけでなく、姿勢を静止させて維持することも、多数の筋の細かい活動により成立しています。ここまで示したような、多くの要素が完全にリンクした、全身のネットワークのやっている止むことのない調整のことを、ベルンシュタインは「協調(コーディネーション)」とよんでいます。

4.全身のシステム

接触のシステムは、身体全体のネットワークで考える必要があります。ある実験より、人が棒のとどくところをかなり正確に見つけることができるのがわかっています。棒を振ると、力学的な変化が棒にも身体全体にも生じます。そして棒の振り方を変えると、回転の力(トルク)、動力学エネルギー、回転の角速度など、様々な変化が生じます。一方で、物体ごとに固有の値として存在する、慣性モーメントがあります。ギブソンは変われば変わるほどあらわになる物の不変な性質を「不変項(インバリアンツ)」と呼んでいます。例えばテニスプレーヤーはラケットを振ることで、彼らの全身でのプレーにそぐう「重さ」や「長さ」や「しなり具合」を識別します。彼らは道具と身体が一体となった運動で初めて現れる、慣性モーメントのような不変項を探し出して情報を得ているのかもしれません。

5.動物の行為と意味

動物においては、「行為がつくりだしている情報が行為をコントロールしている」と言えます。棒を振ってその情報をつくり出すときも、カツオドリや走り幅跳び選手の利用する光学的流動もやはり、自身の動きが作り出します。行為が予期する未来は、自身の探索する行為が作り出す未来です。

動物の作り出す情報とその受け取り方は、その生物種としての限定を受けます。我々脊椎動物においては、多数の筋と内骨格による、全身のネットワークがリンクした「協調」によって行為が成立します。身体全体をネットワークとして協調させることで、全体としての動きではじめて現れる、ある種の不変項を探し出し情報を得ています。

このような「情報を発見する途上にありながら、情報について予期的に知っている」という、動物の行為の特性を考慮するならば、あらかじめ存在する行為のプランに従って行動する、という考え方だけでは、動物の行動を説明できないのではないでしょうか。動物はいつの間にか「環境の中にある意味を」を探索しはじめており、それにより行為がはじまり続いていきます。

  • 参照文献:『アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか』(講談社学術文庫)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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