ルーマンの社会システム論 - 三つのシステム - 趣味で学問

ルーマンの社会システム論

1.概念定義

オートポイエーシス論による社会システムで一番有名な人はニコラス・ルーマンです。山下和也は新たな言葉を定義して、ルーマンの議論を引き継ごうとしています。ルーマンは独特の言葉遣いをしており、さらに山下和也が新しい言葉を導入しているので、ルーマンの社会システム論の紹介の前に、彼らの用いた言葉の定義を示しておきます。

  1. コミュニケーション:ある社会的単体のメンバー間に相互的にひきおこされた調整行動。コミュニケーションにおける情報の伝達は、送り手から受け手へ直接伝達されるものではない。
  2. 二重偶然:行為者が自分の行為の仕方を他者の行為の仕方に依存させるとき、これが逆方向にも起きることで循環が生じ、行為の規定が不可能になること。
  3. コミュニケーション表象:コミュニケーションにおいてそれぞれの個人に生じる認識表象。送り手と受け手の認識に意味を伴って現れる。
  4. メディア:コミュニケーション表象の産出に必要とされる媒介。声ならば空気の振動、文字ならば図と地の差異からなる図形、メールならばコンピューターとそれを結ぶネットワーク。
  5. コード表象化コード:コード自体が認識表象化されるときの、その認識表象の種類を規定するもの。
  6. 意味コードと概念コード:意味として限定するものが意味コードで、社会的に共有される意味に関連する。概念コードは認識表象を限定するもので、個人に現れる意味に関連する。
  7. 人格(Person):コミュニケーションの送り手か受け手となるもの。社会システム自体も人格になりうる。

そして社会システムの定義は次のものとなります。

  • 社会システム:コミュニケーション(構成素)を産出しつづける産出プロセスのネットワーク。

2.ルーマンの社会システム論

山下和也により修正を加えられた、ルーマンの社会システム論を紹介します。

2.1 二重偶然によるコミュニケーションの成立

ルーマンも、コミュニケーションにおいて直接的に情報が伝達されるような考え方を否定しています。ルーマンは二重偶然の概念をコミュニケーションの理解に利用していて、二重偶然はコミュニケーションの産出が連結されて閉域を形成するための重要な規定です。二重偶然は行為者どうしが自らの行為を相手に依存させることで生じる循環のことです。二重偶然によって、お互いがお互いのすることを知ることなく、それでも結果として両者の行為がすり合わせられた地点である状況が生じるので、個人の意識や認識に決定されてはいない事態が生じていることになります。ルーマンは前提と結果の循環としてのコミュニケーションの成立を、「社会システムの創発的秩序」と呼んでいます。

2.2 メディア

意識・認識システムも社会システムもオートポイエーシス・システムであるので、これらの間の関係は相互浸透によります。コミュニケーションにおける情報の伝達は、二重偶然というある種の誤解に基づいてはいるのですが、そのコミュニケーションが成立したことによって送り手と受け手双方で認識表象が産出されます。このときに現れる表象が「コミュニケーション表象」です。コミュニケーション表象はメディアを媒介として声や文字という形で認識されます。当然、送り手と受け手との間で「コミュニケーション表象」が一致する必然性はありません。

コミュニケーションにおいては、意味コード(文脈)によってそのときどきで受け取られる意味がある程度限定されて、連鎖するコミュニケーション(人の行動の変化)も限定されます。意味はそれぞれの人において価値を伴って現れてくるものであると同時に、社会で共有されるものとして、人の認識表象に限定を加えます。意味コードは後者の限定作用のことであり、社会的に共有される通念的な意味のことです。

言葉はコミュニケーションを可能とするメディアで、発音とか文字とかが意味を持つものとして個々人に共有されるその媒介となるものです。オートポイエーシス論の言葉で説明すると以下のようになります。「コミュニケーション表象は、コード表象化コードによってメディアを意味コードのコード表象化したものと規定することができる。前節で述べた記号の一種であり、例を挙げると、空気の振動というメディアを発音というコード表象化コードによって、何らかの意味コードのコード表象化したものが「発話」、図と地の差異というメディアを位相的形象というコードでコード表象化したものが「文字」。何を図と地にするかで同じ記号のさまざまな表象化ができ、文字の場合にメディアを具体的に言えば、紙とインク、ディスプレーとドット、黒板とチョークなど。」(山下和也『オートポイエーシス論入門』、第3章3節(5)意味コード・ネットワーク)。

認識システムのコードは概念コードで、こちらが個人の認識に現れる意味です。これは社会システムの意味コードと一致しているわけではありません。しかし言葉や記号を介して意味コードと概念コードは可能な範囲で調整され、それらが一致した範囲において、コミュニケーションが意味を持って認識システムに現れます。

2.3 四つの社会システム

ルーマンは社会システムを四種類に分類しています。「相互作用システム(Interaktionssystem)」、「組織システム(Organizationssytem)」、「全体社会システム(Gesellschaftssystem)」、「機能システム(Funktionssystem)」の四つです。

  • 全体社会システム:システム全体を包括するシステム。他の社会システムはここからシステム分化したもの。
  • 相互作用システム:その場にいる送り手と受け手の間に成立するコミュニケーションのこと。
  • 組織システム:送り手と受け手がどこに所属するか区別する働きのこと。
  • 機能システム:社会での役割に応じて分化したシステム。それぞれの機能システムは構造的カップリングして社会の機能を担う。結果として機能的に分化した社会全体は、頂点も中心もなしに作動する。

関連ページ:ルーマンの縮減概念ルーマンの予期理論

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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