子供の言葉と周りにある「意味」 - 趣味で学問

子供の言葉と周りにある「意味」

アフォーダンス概念を用いて子どもの言葉の獲得の場を考えることができそうです。このページでは佐々木正人の児童心理学的考察をもとにして、子供がどのように言葉を獲得しているか、考察してみることにします。

1.子供の周りに配置された意味

子供が言葉を獲得するとき、その周りは大人たちに配置された、多種多様な「意味」に囲まれています。言葉は普通、大人との関係の中で子供に受け継がれていくのですが、その関係を可能にする環境の影響を無視することはできないでしょう。大人も子供もその環境があってその行為が可能になっているのであり、ギブソンは特定の環境が特定の行為を可能にしてくれることを、「アフォーダンス」の言葉で指し示しているのでした。アフォーダンスとは、知覚と行為の瞬間に現れる、まだ名づけられていない「意味」のことだといってよいでしょう。いまだ定まった定義のない言葉の「意味」も、我々が読み取っている環境の「意味」と無関係ではないはずです。

関連ページ:アフォーダンスの定義

2.環境の修正の仕方

我々の周りの環境は、長い年月をかけて修正されたものです。狩猟採集民から農業・牧畜の時代を経て、現代にいたってはそれらの時代と大きく変節した修正された環境があるように見えます。しかし大まかな修正の仕方にはなお共通の性質が見受けられます。

生態心理学者のリードは、人間による環境の修正の仕方を「物の変形」、「場所の変形」、「出来事の変形」に分類しています。第一の「物の変形」に関して、「基本材料」、「アフォーダンス」、「道具」の三つの間の対応関係を認めることができます。たとえば、基本材料として<植物:木>、<鉱物:石>、アフォーダンスとして<耐久性:たたく、たたき切る>、道具として<たたき切るもの:斧>のような組み合わせを考えることができます。

第二の「場所の変形」は、住まいの内と外の区分や、貯蔵や調理などの特別な場所とそのための物の設置など、「多種の活動の場を作り出すための、面の独特な配置」です。第三の「出来事の変形」は時間の構造化のことで、自然環境による構造化に加え、たとえば火を明かりとして利用することで、活動時間を延長することができます。

産業革命以来、環境の修正方法と速度は急激に拡大してきたのですが、人間の活動を動機づけていることは長い時間を超えて共通です。子どものまわりにあってその意味を読み取るのも、このような変形を受けた環境です。そして子どもが見ているのは、大人たちが共同して行っている物と場所と出来事を変形する行為です。ことばの獲得は、このように人に行為を促す意味が注意深く配置されたところで進行していきます。

3.言葉の意味と環境の意味

意味が配置された環境で子供は言葉を習得するわけなので、重要になるのは、どうやって周りにある意味に出会うかです。子供は他の誰かと一緒にいて、養育者との深い関わり合いを持ちます。子供の養育を行う大人がまず行うのは、多様な仕方で子どもの「注意を引く」ことです。そうして養育者は子供との間で循環する働きかけにより、周りの世界に注意を注ぐ人へと子供を仕立てることになります。

子どもへの働きかけは質的に変化していきます。「注意引き」は0歳代後半になると周囲にある物へ「注意を向ける」交渉に変わり、6~12ヵ月齢における遊びは、「イナイイナイバア」やくすぐり遊びのようなコミュケーションを目指す遊びから積木遊びのような物を中心とした内容に変わっていきます。その際、使われる物によってコミュケーションの質は変化します。物と人とを特定の行為に導くような物がある場合には、その物を中心にして大人と子供との関わり合いが継続されます。逆に行為が一定に限定されていないおもちゃで、交渉によってそのおもちゃへの関わり方が共有されていく場合もあります。

子どもが周りから意味を読み取れるようになるには、意味を探る行為が可能であるということが必要です。まだ自力では移動できない6~10ヵ月児を自力で移動できる歩行器に入れる実験から、歩行器に入れることで周りへの働きかけの質が変わり、行為の頻度や種類も増える結果が得られています。子どもたちのことばの獲得も同じように、意味の配置された環境への働きかけとともに行われています。

子供はその現場に根付いた「個性語」をまず獲得し、その個性語が変化・発達していきます。個性語の具体例を一つ挙げます。「スプーン」の獲得はまず、「アーンと口を開けてパクンと食べる」ことを意味する「アップン」と、スプーンとの中間的な表現である「アプーン」が使われ、長い交渉のすえにその個性語が発達することで成されます。また文法の獲得はまず個別の動詞ごとに語形変化が現れ、一般的な動詞の変形規則はその後に得られます。「文法」は特定の場面と緊密に結び付いて、個性的に誕生します。

4.一語文から多語文へ

上記3節までが佐々木正人「ことばの獲得を包囲していること」のだいたいの要約になっています(用語は一部自分の使い方に変えています)。子供が「アップン」や「アプーン」という個性語を使うときに生じているのは、言葉を使うこと自体による喜びであったり、「こないだのアレをアレで食べさせろ」といった命令であったりするでしょう。「アップン」はたった一語で「アーンと口を開けてパクンと食べる」という、一つの行為を示しています。我々が指し示すような、物をすくって食べるための形状を持つ範疇としての「スプーン」などではないはずです。

「アップン」という語が一つの行為を示す、このように解釈することがすでに古典的な言語哲学批判となっています。西洋には「イデアに裏打ちされた物」のような考え方が、知らずと奥底に根付いているように思われます。子供が獲得した言葉が範疇としての「名詞」などではないのだから、目の前にある物が、形、色、大きさ、臭い、その他諸々の性質の集合体であっても、「性質の多様さからその言葉が何を示しているのか子供が知りようがない」などということを考える必要はありません。子供は周りの世界との関わり合いの中で、目の前の物へと惹きつけられるようにしてかかわっているのだから、その子供が言葉で指し示していることは彼にとっては自明なものとして決まっています。もちろん、大人との間で厳密な意味での意思疎通は成立していないでしょう。しかしすでに子供は周りの世界に注意を注ぐように仕立てられているのだから、長い交渉の末に周りの人たちとも意味が共有されることになります。そしてたった一語で行為を示す一語文は、名詞(対象)と動詞(操作)の二語文、さらに主体や性質を表示したりして、3語文以上の文へと変化していくと考えられます。

参照文献:小林春美・佐々木正人監修『新・子どもたちの言語獲得』第10章

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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