オートポイエーシス論を取り巻く状況 - オートポイエーシス - 趣味で学問

オートポイエーシス論を取り巻く状況

オートポイエーシスを一言でいうと、システム論の最新バージョンです。チリの神経生理学者マトゥラーナとヴァレラにより生命理論として考案され、ドイツの社会学者ニコラス・ルーマンにより社会システムへと拡張されました。日本への導入は哲学者の河本英夫によってなされ、その仕事はやはり哲学者の山下和也に引き継がれています。

「システム」のような誰もが知っている言葉の方が定義が難しくて、ここではベルタランフィによる「システム」の定義「システムとは相互に作用する要素の複合体」をシステムの定義とします。日本のオートポイエーシス論の第一人者である河本英夫によるシステム区分を挙げると、第一世代システムが動的平衡、第二世代が動的非平衡(散逸構造など)で、オートポイエーシス・システムが第三世代です。動的平衡はホメオスタシスやフィードバックのことだと考えてよいと思います。動的非平衡は、エネルギーの散逸による流動で構造が汲み上がっていくようなイメージでよいでしょうか。オートポイエーシス・システムを第二世代とする人もいて、私は第二世代システムとオートポイエーシス・システムの連続性を見ているのだけれども、このサイトでは、河本にならってオートポイエーシス・システムを第三世代として区別することにします。

オートポイエーシス論に対する評価は真っ二つと言ってもよいぐらい、両極端な場合が多いです。価値を置いていないもののページを作ったりはしないのでもちろん私は高く評価しているのですが、オートポイエーシス論の紹介者である河本英夫や山下和也は、ちょっと大げさに言いすぎじゃないかとも思えます。山下の記述をちょっとだけ抜き出してみます。

「この理論が注目される理由の一つに、認識論の革新という側面があるからである。近代以来の主観・客観の認識論的枠組みはおろか、従来のシステム論の、それどころかいわゆるポストモダン思想の認識論さえ書き換えるほどの。そこにあるのは決定的な違いであり、まさに、このためにオートポイエーシス論は既存のあらゆる理論から根本的に断絶しているのである。」

やっぱりおおげさすぎですね。私は非線形科学との類似と差異を用いて理解しているので、この人の考え方からは、私はオートポイエーシス論を理解できていないことになるでしょう。しかしそんなことを言っていたら誰にも理解できなくなってしまうし、完全に他者を排除する理論からは価値がなくなってしまうでしょう。

詳細は「定義」のページに譲りますが、オートポイエーシス・システムを一言で言うと、「産出プロセスのネットワーク状連鎖の閉域」のことです。他のシステム論との大きな違いは、システム本体を産出されたものではなく、「産出するはたらき」としたところです。

そこまで他の学問と隔絶しているわけでもないし、もちろん、これまでの認識論的枠組みをすべて書き換えるほどのものでもないでしょう。でもやっぱり理解しづらい、または理解されてこなかった理由もあります。その独自性が理由であるのは確かなのですが、あまりよくない理由の一つとして、定式化があまりに不完全な状態で世に出てしまったことが挙げられます。さらに追い打ちをかけたのが、マトゥラーナとルーマンの記述の難解さです。ルーマンの著作の難解さは有名ですし、マトゥラーナの最初の著書『オートポイエーシス』は、実のところ私の手に負えるものではありませんでした。私のオートポイエーシスの理解は、河本英夫と山下和也の著書によるところが大きいです。山下によると、マトゥラーナ、ルーマン、河本英夫で述語の統一がまったくなされておらず、そんな事情もあって、オートポイエーシス論はまだ発展途上の理論とのことです。

上で山下の「あらゆる理論から根本的に断絶している」という記述を紹介しましたが、別にそんなわけでもなく他の分野との連続性ももちろんあります。オートポイエーシス論に類似する思想を共有し、さらに理解が容易な本を、いくつか下に挙げておこうと思います。

精神医学の分野からは下の二冊を挙げておきます。

  • 木村敏『からだ・こころ・生命』(講談社学術文庫)
  • 斎藤環著+訳『オープンダイアローグとは何か』(医学書院) 

心理学の分野からは佐々木正人の本を挙げておきます。

  • 佐々木正人『アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか』 (講談社学術文庫)

もちろん他にもメルロ=ポンティとかも類似の思想として挙げられるでしょうが、メルロ=ポンティの本がすらすら読めるような人なら、いきなりマトゥラーナとルーマンの本を読んでよいと思います。最後に私がオートポイエーシス論の参照にしている、河本英夫と山下和也の本を紹介しておきます。

  • 山下和也『オートポイエーシス論入門』(ミネルヴァ書房)
  • 河本英夫『オートポイエーシス 第三世代システム』(青土社)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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