細胞システム - 三つのシステム - 趣味で学問

細胞システム

1.細胞をシステムとしてみる

生物の最小単位は「細胞」である、とするのが一般的に共通する考え方です。オートポイエーシス論による生命システム論でも同様に、細胞をオートポイエーシス・システムとして記述することが最初の一歩となります。

生物は原核生物と真核生物に大別されます。生命の定義はまだ確定的ではないですが、代謝を行うことと遺伝情報で形質を次世代に伝えること、これら二つの性質を共に持つものと一般に定義されます。遺伝情報においては、RNAの自己複製機構が生命より先に成立していたのではないかと言われていますが、ひとまずこちらは置いておくことにさせてもらいます。オートポイエーシス論ではもう一方、代謝経路の自律的な形成維持に主眼を置いて、理論が構築されています。

代謝経路に注目したのはオートポイエーシス論だけではなく、第二世代システムと呼ばれる非線形科学でも同様です。ただし非線形科学はすでに成立した代謝経路がどのように維持されるか、どのようにその規則性を数学的に記述できるかに主眼が置かれており、代謝経路が成立し維持され続けることがなぜ生じているかは主目的となっていません。両者による生命理論の違いを示すためによく引き合いに出されるのが、ビーカーの中の結晶の自己生成です。ある条件を満たせばビーカーの中で自然と結晶が形作られていくのですが、もちろんビーカーの中という条件のもとであり、観察対象は結晶の方です。この見方では、ビーカー内部が自然環境で結晶が細胞にあたると思ってよいでしょう。しかし実際の細胞を考えてみると、むしろビーカーそのものが細胞膜などの構造体で、その区切られた内部の液体が細胞質とみなすべきです。観察される対象である結晶は、代謝経路で作られ、細胞構造や機能を維持する細胞高分子が当てはまります。オートポイエーシス論ではこの視点を取り入れて、自己の環境である細胞膜(上の話ではビーカー)を形成することで、代謝経路(結晶を作る働きの経路)を維持すると考えます。

これまでも繰り返し言ってきましたが、細胞を構築する働きが細胞システム本体です。細胞システムという言葉が示すのは、観察できる細胞ではなく、細胞をつくる働きの方です。オートポイエーシス・システムとして細胞を考えるということは、細胞を作る働きをシステムとしてみるということです。

2.細胞システム

上で見たように、非線形科学では生命とは何かを考察しようという動機は希薄でした。なかったと言っているのではなく、主流派を形成しなかったということですが。ただし、日本で最初に本格的にオートポイエーシス論を導入した河本英夫が、生命システム論を考案するのに参照したのは、非線形科学における代謝経路の考え方です。生成された産物が触媒になって次の産出プロセスが連鎖するという考え方は、河本英夫と山下和也においても引き継がれています。

比較的単純な原核細胞でさえ、内部機構はかなり複雑なので、考えるべきことはたくさんあるのですが、ここでは代謝にのみ着目してオートポイエーシス・システムとしての細胞システムを記述してみます。

  • 細胞システム:生体高分子の産出経路の閉域。構成素が生体高分子、構造が細胞膜などの細胞構造体。

図示すると図1のようになります。

基体Sを変形・変換して構成素Eとする働きが、矢印で示された産出プロセスです。産出された細胞高分子(E)は触媒となって次の産出プロセスが連鎖します。細胞高分子は触媒としての作用の後に構造体を形作るのに利用されてもされなくてもよいし、触媒作用なしに構造体に組み込まれてもかまいません。細胞膜を思わせる形で構造を円で描いてますが、構成素のまとまりとして構築された、細胞膜を含む物理的構造体全般を示しています。一度産出プロセスが連鎖して閉域が形成されれば、以後同様の閉域が循環していきますが、閉域が成立することが重要なので、まったく同じ産出プロセスの連鎖でなくてもかまいません。図の点線矢印は、類似するがそれまでとは若干異なる産出プロセスが連鎖している場合を示しています。

以上が河本英夫、山下和也の考え方を元にした細胞システムの定義です。
ある時点で存在する細胞に限ってみても、原核細胞と真核細胞、単細胞生物と多細胞生物、原始生命体の誕生、進化、細胞分化など、オートポイエーシス・システムとして細胞を記述するための課題は山積しています。一通り三つのシステムの考え方を紹介した後で、詳細な記述を行ってみたいと思います(21/6/5において未作成)。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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