社会をシステムとしてみる - 三つのシステム - 趣味で学問

社会をシステムとしてみる

1.社会システム論

社会とはなんでしょうか。人が集まるとルールができて分業が成されて新しい道具や建物が作られ、これらが世代を超えて引き継がれていきます。一度できたルールや以前に作られた構造物が人の行動や性質を規定して、規定された人たちによってルールや構造物が修正、新造されて、以下同様の作用と反作用が続いていきます。今挙げたような人と環境との相互の働きかけと、結果作り上げられた規範体系や構造物を、すべてひっくるめて「社会」と呼んでいます。そうすると環境を作り出す「働き」と作られた「構造」の総体が社会と呼ばれることにおいて、社会は細胞や生命と同じ機構を共有していると考えてよいでしょう。細胞や多細胞生命体をシステムとして見るのと同じように、社会をシステムとしてみなして考察を進める分野を、社会システム論と呼びます。

社会システム論は社会学の一分野で、有名なニコラス・ルーマンも社会学者です。ざっくり言うと、一度成立した社会システムが、環境を巻き込みながら次のシステムの状態を再生産する、というのが社会システム論での社会の考え方です。社会学では「近代」がとても重要な概念で、再帰的近代のような言葉が上の考え方をそのまま示しています。文化人類学者のレヴィ・ストロースは熱力学の喩えをもとに、「熱い社会」と「冷たい社会」の言葉を用いていて、熱い社会は近代のように次々に反応が連鎖して全体の状態が変化していく社会で、冷たい社会は原始社会のように出来事を内部にとりこみながらかつての状態に収束させる社会です。一度成立したシステムとしての社会がその作動を通じて次の状態を再生産する、と考えていることにおいて、社会システム論と同様の考え方と言えるでしょう。

2.オートポイエーシス論による社会システム論

オートポイエーシス論で社会を考えるということはもちろん、社会をシステムとみなすことです。相互に作用する要素とそれにより作られる複合体がシステムであり、複合体を形成する働きなくしてシステムは成立しません。オートポイエーシス論では、産出するはたらきと結果として作られる構造として社会システムを記述することになります。オートポイエーシス論を用いて社会システムを記述するためにはまず、産出されるもの(構成素)、それを産出する働き(産出プロセス)、まとまりとして産出された構造体(構造)が何かを明らかにする必要があります。

オートポイエーシス論による社会システム論を展開したのは前述のルーマンで、彼は社会システムの構成素をそれぞれの人間ではなく「コミュニケーション」と考えました。コミュニケーションを構成素とすることで、人間が社会に従属することを肯定する心配なしに、社会システムを記述可能となっています。オートポイエーシス論でのコミュニケーションはやや特殊な意味合いで使われていて、コミュニケーションとは「ある社会的単体のメンバー間に相互的にひきおこされた調整行動のこと」(マトゥラーナ)です。コミュニケーションの産出プロセスが閉域を形成し、そのまとまりとして構造である社会が排出されます。このオートポイエーシス論による記述は、「人と人との関係で人の行為が変化して、物理的環境の変化をも伴ってその変化に人が行動調整され、以下同様に連鎖し続けていくこと、その総体を社会と呼ぶ」ということの言い換えになっています。このようにある意味言い換えとしか思えない、オートポイエーシス論による社会システムの記述が果たして妥当かどうか、ルーマンと山下和也の考え方を提示した後、検討してみる予定です(21/06/28時点で未作成)。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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