Reafferenzの原理 - 趣味で学問

Reafferenzの原理

神経作動の古典的な考え方に反する原理として、Reafferenzの原理があります。神経生理学や動物行動学の本では割と普通に出てくるんですが、それ以外の分野だと馴染みのない考え方です。まず神経作動の原理として、刺激→知覚→中枢→運動という反射図式があって、もちろん間違っているわけではないですが、ある程度身体が発達した動物では単純に過ぎます。それがわかった上で、このように知覚と運動を分離して考えてしまう傾向が、どうしても出てきてしまいます。この単純な感覚→運動の反射図式を打ち破るために考え出されたものが、Reafferenzの原理です。Von HolstとMittelstaedt(1950)によって唱えられ、Held(1965)、Teuber(1969)などが神経心理学に積極的に導入したそうです。Reafferenzの原理はあくまで理論であって、このような原理の存在が実証されているわけではありません。しかし数少ない具体的な生理学的機構の考え方なので、ここで紹介しておこうと思います。

1 Reafferenzの原理

図1にReafferenzの原理の基本的な考え方を示します。

まず出発点は高次中枢(Zn)です。中継地点(Z2)を経て一次中枢(Z1)から遠心性神経インパルスが出ています。図からは、このあたりが脊髄の介在神経とかにあたりそうですが、仮想的な原理ですので具体的な場所が局所的に対応しているとは考えない方がよいでしょう。

出発点が中枢からなので脊髄反射ではなく、随意運動の方がこれに近いです。一般的な考え方と違うのはEとMの分岐の部分です。遠心性刺激Eは分岐して中枢Znへと向かい、これを遠心コピー(EK)とします。さらに効果器では回帰性求心インパルス(Reafferenz)Aが生じます。このReafferenzは通常の効果器由来のものではなく、仮想的な概念です。AとEKは相補的に作用し、反対方向の量としてお互いに相殺し合います。正常ではAとEKは相殺されるのですが、二つの相互関係が崩れると、中枢へ上行する情報(M)に変化が生まれ、Znでの知覚に変化があらわれます。

2 Reafferenzの原理を用いた知覚恒常性の説明

Reafferenzの原理を用いた、知覚恒常性の説明を一つ示すことにします。図2は「急激な眼筋麻痺の時に二重視が起こり、しかも虚像が麻痺筋の本来の運動方向の側に分離して出現するのは何故か」を説明する図です。

まず正常な場合が右下のdです。中枢Zからの指令で眼球が動き、Z1で分岐したプラスの遠心性インパルスとマイナス方向の求心性インパルスが生じ、Z1において打ち消します。このときZnには求心性インパルスが到達しないので、眼球を意図的に動かして網膜像が移動しているにもかかわらず、知覚される像は静止して現れてきます。

aでは遠心性インパルスが分岐した後で眼筋に到達しない、眼筋麻痺などの通常ではない状態です。実際には眼球が動かないため求心性インパルスが発生せず、分岐したプラスのEとの間で打ち消し合いがおこらず、中枢Znに到達した遠心コピーにより、意図した方向に虚像が生まれることになります。bは対象の方を移動した場合で、網膜像の移動により求心性インパルスAとなってZnに到達し対象の動きとして知覚されます。cは眼球を機械的に動かした場合で、bとは逆方向の網膜像の移動およびマイナスの求心性インパルスAが生じ、bのときと同様に対象の動きが知覚されます。

上をまとめると、正常な場合(図2d)は二つのインパルスの打ち消し合いにより、網膜像の動きにかかわらず像が静止したままと知覚され、意図して眼球を動かした場合ではないとき(図2b、c:対象物を移動した場合と眼球を機械的に動かしたとき)対象物の移動として現れ、眼球麻痺のような中枢からの指令があるにもかかわらず眼球が動かないとき(図2a)はインパルスの打ち消し合いが生じず虚像が現われます。このように二つのインパルスの打ち消し合いが起こるかどうかで、正常な場合と眼球麻痺のような場合の知覚の違いが説明されています。

参照にした著書にはReafferenzの原理に関して次のような記述があります。「あくまで理論であって、具体的に遠心コピーや、回帰性求心系が見つかっているわけではない。しかし、証拠はないにせよ、知覚は末梢に発するとおなじぐらい、中枢にも発するのだという考え方は重要である。自発性を抜いては心理現象はわからないのである。」。心理学者が神経生理学的知見をどう考えているのか、著書からはわからない場合が多いのですが、身体・神経系の自律性・自発性の重要性を認識していることがよくわかる、貴重な表現となってくれています。

  • 参照文献:『神経心理学入門』(山鳥重、医学書院)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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