オートポイエーシスの定義 - 定義 - 趣味で学問

オートポイエーシスの定義

1.定義

人によってオートポイエーシス・システムの定義からして違うのですが、まず山下和也による定義を示します。

  • 定義:オートポイエーシス・システムとは、産出物による作動基礎付け関係によって連鎖する産出プロセスのネットワーク状連鎖の自己完結的な閉域である。閉域形成に参与する産出物を構成素と呼ぶ。

このサイトではオートポイエーシス・システムの定義として上のものを使います。オートポイエーシス・システムを一言でいうと、「産出プロセスの連鎖的閉域」のことです。

2.システムの自己

オートポイエーシス・システムの自己とは何かというと、産出プロセスのネットワーク状連鎖の閉域が形成されたときの、そのネットワーク状連鎖のことです。オートポイエーシス・システムの自己と混同しやすいものに、構成素と構造があります。構成素は産出プロセスによって産出されるものです。産出する働きとは異なり、産出される構成素はオートポイエーシス・システムの自己ではありません。構成素は他のものから独立した一つのまとまりを形成しており、これをこのシステムの「構造」とよびます。構成素がシステムに属していないのだから、構造もまたシステムからは区別されることになります。

ここまでの説明では産出プロセスがどうやって連鎖的閉域を形成するかわからないと思います。産出された構成素は、次のプロセスの触媒になると思ってください。構成素は次の構成素を産出するのではなくて、構成素があることでその産出プロセスが働くということです。

言葉だけだと分かりづらいと思うので、生命システムの図で説明します。図1に簡略的なオートポイエーシス論による細胞システムを示します。

生命システム本体は、細胞高分子を構成素として産出するプロセスのネットワーク状閉域です。細胞膜は、構成素である細胞高分子のまとまりとしてあるので、構造になります。システム本体は「はたらき」の方なんですが、人間が観察できるのは細胞のような構造の方なので、人間には構造がシステム本体として見えます。

3.非線形科学との違い

オートポイエーシス論では、オートポイエーシス・システムの閉鎖系が強調されています。一方、第二世代システムにあたる非線形科学は、開放系が強調されています。

生命体を例にとると、身体外部から何かしらの物質を内部に取り入れて、他の物質に変換して外部に排出しています。だからオートポイエーシス・システムである生命体は閉鎖系と言われると、納得のいかなさが残ると思います。しかし自律的な作動の結果としてあると考えるなら、このことは副次的とみてよいと思います。閉鎖系より自律系という言葉だったら、抵抗が少なかったかもしれません。非線形科学の基本は散逸力学系みたいで、エネルギーの散逸じゃなくてもいいんですが、何かが流動していってその流れに巻き込まれるような感じで構造が現れて来るという感じなので、システムの存在する前からある何かの流れの方が主導的に思えます。非線形科学は開放系を強調するので、それに対抗して自律系ではなく閉鎖系と自称したのかもしれません。

4.マトゥラーナ、ルーマン、河本英夫による定義

マトゥラーナ、ルーマン、河本英夫による定義を示しておきます。問題点は構成素が構成素を産出する、というところでしょう。三人の定義とも、基本的には同じことを違う表現を用いた感じです。ただ、ところどころ理解の難しい記述があります。

4.1 マトゥラーナによる定義

  • 定義:オートポイエティック・マシンとは、構成素が構成素を産出するという産出(変形および破壊)過程のネットワークとして、有機的に構成(単位体として規定)された機械である。このとき構成素は、次のような特徴を持つ。(i)変換と相互作用を通じて、自己を産出するプロセス(関係)のネットワークを、絶えず再生産し実現する、(ii)ネットワーク(機械)を空間に具体的な単位体として構成し、またその空間内において構成素は、ネットワークが実現する位相的領域を特定することによってみずからが存在する。

4.2 ルーマンによる定義

  • 定義:オートポイエーシス・システムとは、その構造のみならず、システムがそれから成る構成素をも、まさにこの構成素自身のネットワークにおいて産出するシステムである。

ルーマンは「自己言及」と呼ばれる事態でオートポイエーシス・システムを考えていて、ルーマンによる「自己言及システム」の定義は次のものです。

  • 自己言及システム(ルーマン):あるシステムは、それからそのシステムが成る構成素を機能的単位としてみずから構成し、これら構成素間のすべての関係の中で、この自己構成への指示をともに走らせ、こうした仕方で自己構成を進行しつつ再生産する場合、自己言及的(selbstrefentiell)と呼ばれうる。

4.3 河本英夫による定義

  • 定義:オートポイエーシス・システムとは、反復的に要素を産出するという産出(変形および破壊)過程のネットワークとして、有機的に構成(単位体として規定)されたシステムである。(i)反復的に産出された要素が変換と相互作用をつうじて、要素そのものを産出するプロセス(関係)のネットワークをさらに作動させたとき、この要素をシステムの構成素という。構成素はシステムをさらに作動させることによって、システムの構成素であり、システムの作動をつうじてシステムの要素の範囲(Sich)が定まる。(ii)構成素の系列が、産出的作動と構成素間の運動や物性をつうじて閉域をなしたとき、そのことによってネットワーク(システム)は具体的単位体となり、固有領域を形成し位相化する。このときに連続的に形成される閉域(Selbst)によって張り出された空間が、システムの位相空間であり、システムにとっての空間である。

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

One thought on “オートポイエーシスの定義

  1. ≪…「産出プロセスの連鎖的閉域」…≫の眺望は、『自然比矩形』と『円環』とし数の言葉ヒフミヨ(1234)が普遍言語化していると観たい・・・ 

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