1.簡略的な定義が必要な理由
一般的によく使われるけど、いまいち意味がわからない言葉に「左翼」、「保守」、「右翼」の三幅対があります。意味をよく理解できないのには理由があって、その歴史的経緯から複数の軸で構成された複雑な概念対であるからです。仕方がないことではあるのですが、定義が複雑なために、日本のほとんどの政治家が保守を自認するという、よくわからない状況になっています(2025/11/09時点)。そこで一旦、一般的な定義で一番重要と思える要素を取り出して定義し直してみることにします。
一番重要な要素は、理想郷を想定するかどうか、それがあるとして過去にあったのか、それとも未来に実現すべき目標と想定するかどうかです。この区分により左翼、保守、右翼をすっきり区分できると考えられます(結論を急ぐ人は第3節に飛んでください)。ただし、どうしてもうまく説明できないトピックが出てきてしまうのを、先に断っておきます。
2.一般的な定義
著書やネット情報をざっとみる限り、大まかな考え方は共通しているようです。正確に記述しようとすると膨大な量になってしまうので、多くの情報に共通する部分を抜き出して、ごく簡単な定義を示します。
中心となるのは人間の「理性」を信頼するかどうかです。人間理性を信頼するのが左派で、信頼しないのが保守と右翼です。さらに、人間理性を超える信仰や伝統を重視するのが右翼で、理想社会を断念して秩序を維持しようとするのが保守です。
| 分類 | 理性に対する態度 | 重視する対象 |
|---|---|---|
| 左翼 | 信頼 | 理性により構築されたシステム |
| 保守 | 否定 | 信仰や伝統 |
| 右翼 | 否定 | 現存社会 |
「理性」というのは欧米由来の概念で、「神」に与えられた「理性」という意味を含み、日本人の思う理性とは少し違った概念です。たぶんわかりづらくしている要因はこの概念を重要概念としたためです。普通に考えて、人間の理性を信頼していないからシステムとして新たに構築する必要があると考える人もいるでしょうし、信仰や伝統は理性的に運営されてきた結果、長い間維持されてきたと考える人もいるでしょう。理性を最重要視した結果として、区分が直観と一致しなくなっているようです。
3.理想郷の時間軸上の位置による定義
わかりづらくしている要因だった「理性」概念を取り除いて、「左翼」「保守」「右翼」を定義してみます。「理性」の代わりに、今度は「理想郷」で区分します。
3.1 理想郷がいつの時代によるかで区分する
目指すべき社会の実在を信じるかどうか、それが存在するとしていつ存在するかで、左翼、保守、右翼を定義してみます。簡単に言うと、左翼が未来志向型で右翼が過去回帰型、保守はそのどちらでもなく現状(現在)維持です。
| 区分 | 理想郷の時代 | 政治的性向 |
|---|---|---|
| 左翼 | 未来 | 能動的に社会を変革していこうとする考え方。 |
| 保守 | 想定しない | 概ね現状を維持。 |
| 右翼 | 過去 | かつて存在した理想とする制度を再現しようとする考え方。 |
左翼は、今より社会をもっとよくできる、未来において理想郷が実現可能だと考えるので、現在の社会の問題点を積極的に改善していこうとする考え方、ようするに革新派となります。右翼は、過去に今よりも優れた社会が実在したのだから、その制度を復活させればよい、という考え方です。保守派はどちらでもなく、最適ではないかもしれないけど今の社会はそれなりに存在価値があるから存続しているので、余計な手を加えずマイナーチェンジでなんとかなるだろう、という考え方です。理想郷を想定する時代で区分すれば、左翼が革新派で右翼が天皇制、家父長制回帰を志すこと、そして保守が現状維持であることと、感覚的に一致させられます。
3.2 政策を区分してみる
上の定義はわかりやすい区分になったとは思いますが、政治家や政党を全てこの区分で分類することはもちろんできません。ある人のこの政策は左だけど、あの政策は右なんてことが普通におこります。それから、ある政策や考え方をどちらに区分してよいかわからない、という場合もあります。こういったことはどの定義でも同様です。
いくつか話題に上りやすい政策を分類可能か考えてみます。
| トピック | 区分 | 考え方 |
|---|---|---|
| 憲法九条 | 左翼:護憲⇔右翼:改憲(?) | 九条を先進的と解釈すれば可能 |
| 環境・エネルギー問題 | 左翼:再エネ⇔右翼:原発 | 新技術の確立が必要な再エネとアナログ変換の原発 |
| 移民政策 | 左翼:受け入れ⇔右翼:維持 | 多様性を積極的に肯定するかどうか |
| ジェンダー | 左翼:多様な性⇔右翼:男女二分 | 性の選択にも自由度を設定するかどうか |
感覚的にはっきりわけられるけど、区分理由がはっきりしないのが憲法九条に対する態度です。革新派なら当然憲法に対しても改善を要求するはずで、現在の護憲が左翼で改憲が右翼という構図は逆に思えます。「戦力の不保持」を謳う九条が先進的と解釈すれば一応この区分で矛盾は回避できます。しかし平和主義を盛り込む憲法は世界的にたくさんあるらしく、日本国憲法はわりと標準的な憲法らしいです。そうすると、左翼がより九条の精神を体現するために改憲するべきだと主張するのでない限り、この区切り方は苦しいと言わざるを得ないです。
こんな感じで、左翼が未来派で右翼が過去回帰派とする区分はベストな定義ではないです。それでも現在の政治家や政党を上手く分類するには、とても有益な方法と思われます。
4.参照文献
参照文献:東浩紀・北田暁大編『思想地図 vol.1 特集・日本』(日本放送出版協会)
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