ルーマンの縮減概念 - オートポイエーシス論の展開 - 趣味で学問

ルーマンの縮減概念

山下和也がオートポイエーシス論に導入していない概念にルーマンの「縮減」があります。山下はオートポイエーシス論には特にこの概念は必要ではないと考えたようです。しかしこの概念は多様な内部状態を前提にする概念であり、多様な生成プロセスの並列を前提にするオートポイエーシス論とは相性が良いようにも思えます。このページではルーマンの縮減概念をオートポイエーシス論に組み込めないか検討してみようと思います。

1.大澤真幸による縮減概念の解釈

ルーマンの社会システム論は難解であることで有名で、その理解は人による振れ幅が大きいです。その中で同じ社会システム論を基盤にする社会学者の大澤真幸が縮減概念をわかりやすく説明してくれています。大澤による解釈をまとめると次のようなものです。

ルーマンは生物進化とは関係の無い、「社会進化」の概念を提示しています。システム内部の複雑性は環境の複雑性より少なくなっていて、その複雑性の縮減の度合いが大きいほど、社会システムは進化していると考えられます。この縮減の度合いの大きさはシステムの選択能力の高さによっています。この選択能力は何に支えられているかというと、システム自身の複雑性の大きさです。逆説的に、システム自身が複雑で多様な経路を持つことで、外部の変化に対応した応答が可能になる、ということです。

一般に言われているような、複雑な経路が一つに短縮されるといった意味は、そのときどきの現れは一つでしかないことからくる、縮減を可能とし、かつそこに定在し続ける複雑性を、視野から消去してしまったことからもたらされているのでしょう。

2.プロセスの閉域の縮減と新生

オートポイエーシス論において、プロセスの閉域に多様性があると考えても別に問題ありません。実際に原核生物のような単純な生物でも、その代謝経路は複雑かつ冗長性があると言われていますし、むしろ縮減はオートポイエーシス論と親和性の高い概念に思われます。プロセスの閉域とは時間経過とともに産出プロセスが同型性を保ちながら連接して循環するということなので、その瞬間に観察されるプロセスはごく少数です。しかしその観察されたプロセスの元になった、潜在する多数のプロセスが存在し続けていると考えれば、産出プロセスが結果として閉域を形成するということそのものに縮減の概念を見て取ることが可能なはずです。

そうすると図1のように、産出プロセスのプールの中で、環境や構造による攪乱によって、その瞬間のプロセスが決定されることを縮減の概念で表現できます。

そのとき選ばれなかったプロセスも可能性として潜在し続けています。あるいは複数のプロセスが同時に生成したのですが、閉域形成に関与したのがそのプロセスであった、と考えることもできます。

また環境との相互浸透により、それまで存在しなかった新たな産出プロセスとその循環経路が成立することも考えられます。ひとまずこれを新生と名付けておくことにします。この場合も、潜在する多数のプロセスの存在が、新たな産出プロセスの存在を支えています。

関連ページ:ルーマンの社会システム論ルーマンの予期理論

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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