細胞内共生説(オートポイエーシス論) - 趣味で学問

細胞内共生説(オートポイエーシス論)

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目次

前ページで、原核生物のオートポイエーシス論的記述が細胞システムの記述とほぼ同じでよい、という結論に達しました。今回は、原核生物の共生による現生真核生物が誕生したとする細胞内共生説に対し、オートポイエーシス論を用いた説明を試みることにします。

1.細胞内共生説

まずは細胞内共生説をざっとおさらいしておきましょう。現在は高校生物でも習うほど一般的な考え方として受け入れられています。細胞内共生説をざっとまとめると下のようになります。

  • 細胞内共生説:現存の真核生物のミトコンドリアと葉緑体は、それぞれ好気性細菌とシアノバクテリアが、宿主細胞に入り込み共生するようになったものである。

このように考えられるようになった理由は、ミトコンドリアや葉緑体が独自のDNAとリボソームを持つことが大きいです。そして実際にミトコンドリアや葉緑体の独立性が高く自律的に分裂や融合を繰り返していることがあきらかになっています。宿主細胞の祖先に関しては、現存の生物では古細菌がもっとも系統的に近いと考えられています。共生が成立した時点で、核や小胞体などの細胞小器官を持つ真核生物だったかどうかは、意見が分かれているようです。

ミトコンドリアを持たない真核生物はけっこう存在するようで、ゾウリムシもその一つです。あれだけ高機能な単細胞生物がミトコンドリアを持たないのですが、体制化が進んだ多細胞生物はミトコンドリアを持つので、その後の多細胞生命システムの成立に、ミトコンドリアが大きな役割を持っていたのは確かでしょう。

2.ミトコンドリアと細胞全体との関係

葉緑体と細胞全体の関係はミトコンドリアと細胞との関係で代替できるはずなので、葉緑体は置いておいて、ミトコンドリアと細胞全体との関係を考えることにします。

細胞生物学の本(参照文献1)の情報をもとにすると、ミトコンドリアは独自のDNA、リボソームを持っています。ミトコンドリア自体がタンパク質等を生成しているはずですが、細胞質の方から、解糖で生じた代謝産物や水素受容体、遊離リボソームで作られたタンパク質を輸送されているみたいです。またクエン酸回路の他にも尿素回路とかの代謝経路も持ってるそうです。以上のことから、ミトコンドリア自体が自律的に活動しながらも、細胞環境にも依存しているのは間違いないでしょう。ミトコンドリアと他の細胞小器官、細胞全体との関係はお互いに環境になっていると考えられます。

3.構造的カップリングによる説明

まずミトコンドリアの元になった原核生物のことを「原ミトコンドリア」としておきます。原ミトコンドリアも宿主細胞も個々の細胞であり、別個の細胞どうしによる新たな細胞システムが成立しています。オートポイエーシス論で類似のシステムは多細胞生命体システムです。山下和也による考え方では各細胞の構造的カップリングによって多細胞生命体システムが考案されていました。しかし新たな構成素が器官とされているなど、細胞内共生説にそのまま適用できそうもありません。構造的カップリングによる説明を試みるには、新たな構成素とプロセスを考える必要があります。

関連ページ:多細胞生命体システム構造的カップリング

細胞内共生で何が起こったかというと、原ミトコンドリアの環境(宿主細胞内部)と宿主細胞の環境(主に細胞質)に変化が生じて、両者が自律的に応答することで環境変動と自律的応答状態の閉域(再帰性)が成立して維持されるようになったということです。結局のところ構成素は、両者に共通する環境変動のことで、プロセスの方は、環境変化に対して、自律的に原ミトコンドリアと宿主細胞が応答して、環境を次の状態に変化させることでしょう。環境変動が結果として円環をなしたとき、原ミトコンドリアと宿主細胞を含む新たな細胞システムが成立しているはずです。

ここでいったん細胞システムや多細胞生命体システムを離れ、社会システムを振り返ります。社会システムの構成素は個人そのものではなく個人間のコミュニケーションでした。コミュニケーションと呼ばれるものは、個人が自分の周りの人達の行動を見ながら、目の前の人への対応を自律的に変化させることと言ってもよいでしょう。周りの人たちの行動も環境とみなせるでしょうし、それに加え彼らの活動による実際の周りのものの変化も環境です。ある個人の行動が周りの人の環境を変化させ、次の行動を生み出して連鎖して循環していくこと、コミュケーションを構成素とするシステムとは、実質このような事態のことです。

関連ページ:ルーマンの社会システム論

そうすると個人どうしの構造的カップリングと、原ミトコンドリアと宿主細胞との間の構造的カップリングはそんなにかわらないかもしれません。「原ミトコンドリアと宿主細胞とのコミュニケーション」という表現も可能かもしれませんが、コミュニケーションの定義がないとわけがわからなくなってしまいそうです。「コミュケーション」みたいな簡潔な言葉で表現できれば楽ですが、この言葉は使わないことにします。

以上より、細胞内共生説を構造的カップリングにより記述すると、以下のようになります。

  • 細胞内共生による新たな真核細胞システムの成立:宿主細胞に入り込んだ原ミトコンドリアと宿主細胞双方の環境に変化が生じ、両者の自律的応答による環境変動と応答状態の閉域(再帰性)が成立して維持されるようになったもの。構成素を両者に共通する環境変動、プロセスを環境変動への自律的応答によるさらなる環境の変動をもたらすこととする、原ミトコンドリアシステムと宿主細胞システムの構造的カップリングによる。

実のところ、わざわざオートポイエーシス論で記述する必要があるのかと思えてきます。いったん社会システムの再考まで行った後で振り返ろうと思います。

4.参照文献

参照文献1:江島洋介『これだけは知っておきたい 図解細胞生物学』(オーム社)、Q2-7、Q3-4

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と大学数学も入門を書く予定。いつの日か。

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