正規分布

統計学で最も利用されているのは正規分布でしょう。正規分布は図1のような左右均等な山型の分布です。

山の頂点のところの横軸の値が平均値で、分散が大きいとなだらかな形の山、小さいと尖った形の山となります。自然界でデータをとって、各値(値の範囲)とその頻度の関係をグラフにしてみると、正規分布になることはよくあります。一般的によく見られることは重要で、これもよく利用される理由の一つですが、その他にも平均0、分散1の標準正規分布への変換が容易なことも重要な性質です。この性質により、ある範囲のグラフの面積を、正規分布表を使って簡単に求めることができます。

ここである確率分布が正規分布であることがわかったとします。確率分布において、その曲線と横軸に囲まれた面積全体で1の値になります。とすると、ある値からある値の範囲に入っている割合は、その面積を計算することで求めることができます(図2)。これは積分計算をすればよいのですが、正規分布の式は下の形で、この複雑な形で微積の計算はやりやすいという性質があったりするのですが、これを毎回計算するのは大変です。

\begin{align} f(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}\sigma}e^{-\frac{{x-m}^2}{2\sigma^2}} \end{align}

そこで標準正規分布において、各範囲における面積をあらかじめ細かく計算して表(正規分布表)にしておいて、正規分布の確率分布を標準正規分布に変換し、正規分布表を使うことで確率値を求める、ということをよく行います。

平均をm、標準偏差をσ(分散はσ2)とする正規分布をN(m,σ2)で表すのが一般的です。これを下の式で標準化すると、新たな変数Zが標準正規分布に従います。

\begin{align} Z=\frac{X-m}{\sigma} \end{align}

この式を少し変形するとZ=(1/σ)X-m/σ(Z=aX+bの形)になって、これは確率変数の変換の式の形をしています。

関連ページ:確率変数の変換

この変換式をどうやって見つけたか、専門外の私は知らないですが、ここは過去の偉大な発見を利用させてもらうとしましょう。正規分布の式は、平均と標準偏差、エクスポーネンシャルeを使って表現されたとても重要な式ですが、高校数学の範囲ではこれを覚えておく必要はないでしょう。覚える必要があるとすれば標準正規分布への変換式の方ですが、定期テストなどではあらかじめ与えてくれるかもしれないので、その都度、教員の指示に従っておいてください。

長くなったので、具体的な利用の仕方については次のページで示したいと思います。
<< 連続型確率分布 正規分布の利用 >>

ホーム » ページ 2

Reafferenzの原理

神経作動の古典的な考え方に反する原理として、Reafferenzの原理があります。神経生理学や動物行動学の本では割と普通に出てくるんですが、それ以外の分野だと馴染みのない考え方です。まず神経作動の原理として、刺激→知覚→中枢→運動という反射図式があって、もちろん間違っているわけではないですが、ある程度身体が発達した動物では単純に過ぎます。それがわかった上で、このように知覚と運動を分離して考えてしまう傾向が、どうしても出てきてしまいます。この単純な感覚→運動の反射図式を打ち破るために考え出されたものが、Reafferenzの原理です。Von HolstとMittelstaedt(1950)によって唱えられ、Held(1965)、Teuber(1969)などが神経心理学に積極的に導入したそうです。Reafferenzの原理はあくまで理論であって、このような原理の存在が実証されているわけではありません。しかし数少ない具体的な生理学的機構の考え方なので、ここで紹介しておこうと思います。

1 Reafferenzの原理

図1にReafferenzの原理の基本的な考え方を示します。

まず出発点は高次中枢(Zn)です。中継地点(Z2)を経て一次中枢(Z1)から遠心性神経インパルスが出ています。図からは、このあたりが脊髄の介在神経とかにあたりそうですが、仮想的な原理ですので具体的な場所が局所的に対応しているとは考えない方がよいでしょう。

出発点が中枢からなので脊髄反射ではなく、随意運動の方がこれに近いです。一般的な考え方と違うのはEとMの分岐の部分です。遠心性刺激Eは分岐して中枢Znへと向かい、これを遠心コピー(EK)とします。さらに効果器では回帰性求心インパルス(Reafferenz)Aが生じます。このReafferenzは通常の効果器由来のものではなく、仮想的な概念です。AとEKは相補的に作用し、反対方向の量としてお互いに相殺し合います。正常ではAとEKは相殺されるのですが、二つの相互関係が崩れると、中枢へ上行する情報(M)に変化が生まれ、Znでの知覚に変化があらわれます。

2 Reafferenzの原理を用いた知覚恒常性の説明

Reafferenzの原理を用いた、知覚恒常性の説明を一つ示すことにします。図2は「急激な眼筋麻痺の時に二重視が起こり、しかも虚像が麻痺筋の本来の運動方向の側に分離して出現するのは何故か」を説明する図です。

まず正常な場合が右下のdです。中枢Zからの指令で眼球が動き、Z1で分岐したプラスの遠心性インパルスとマイナス方向の求心性インパルスが生じ、Z1において打ち消します。このときZnには求心性インパルスが到達しないので、眼球を意図的に動かして網膜像が移動しているにもかかわらず、知覚される像は静止して現れてきます。

aでは遠心性インパルスが分岐した後で眼筋に到達しない、眼筋麻痺などの通常ではない状態です。実際には眼球が動かないため求心性インパルスが発生せず、分岐したプラスのEとの間で打ち消し合いがおこらず、中枢Znに到達した遠心コピーにより、意図した方向に虚像が生まれることになります。bは対象の方を移動した場合で、網膜像の移動により求心性インパルスAとなってZnに到達し対象の動きとして知覚されます。cは眼球を機械的に動かした場合で、bとは逆方向の網膜像の移動およびマイナスの求心性インパルスAが生じ、bのときと同様に対象の動きが知覚されます。

上をまとめると、正常な場合(図2d)は二つのインパルスの打ち消し合いにより、網膜像の動きにかかわらず像が静止したままと知覚され、意図して眼球を動かした場合ではないとき(図2b、c:対象物を移動した場合と眼球を機械的に動かしたとき)対象物の移動として現れ、眼球麻痺のような中枢からの指令があるにもかかわらず眼球が動かないとき(図2a)はインパルスの打ち消し合いが生じず虚像が現われます。このように二つのインパルスの打ち消し合いが起こるかどうかで、正常な場合と眼球麻痺のような場合の知覚の違いが説明されています。

参照にした著書にはReafferenzの原理に関して次のような記述があります。「あくまで理論であって、具体的に遠心コピーや、回帰性求心系が見つかっているわけではない。しかし、証拠はないにせよ、知覚は末梢に発するとおなじぐらい、中枢にも発するのだという考え方は重要である。自発性を抜いては心理現象はわからないのである。」。心理学者が神経生理学的知見をどう考えているのか、著書からはわからない場合が多いのですが、身体・神経系の自律性・自発性の重要性を認識していることがよくわかる、貴重な表現となってくれています。

  • 参照文献:『神経心理学入門』(山鳥重、医学書院)

<< 反射とCPGとプレ・プログラム反応

ホーム » ページ 2

連続型確率分布

二項分布のところで離散型確率分布の言葉を出しました。確率変数の値が飛び飛びの場合に離散型で、連続している場合が連続型です。確率変数が連続しているというのはよく考えると不思議なことなんですが(取れるデータは有限)、実のところ私にはよくわからないので、ひとまずそんなものだとさせてください。具体例を挙げた方がわかりやすいですので、図1に連続型確率分布の一例を示します。

横軸が確率変数の値で縦軸が関数f(x)の値です。確率なので全ての場合を足せば1になるのですが、連続型確率分布の場合で全ての場合に当たるのはそのグラフと横軸で囲まれた面積です。図1では確率分布が変数Xのαからβの範囲に収まっているので、この範囲の面積が1になります。式で表現すると下のようになります。

\begin{align} \int_{\alpha}^{\beta} f(x) dx = 1 \end{align}

f(x)は確率密度関数と呼ばれ、f(x)≧0の条件があります。f(x)は確率値のように見えて確率値そのものではないです。じゃあf(x)はなんなんだという話ですが、これも私の手には負えないのでそんなものだとさせてください。連続型確率分布では全体の面積が1で、部分的な確率はやはり積分により面積を得ることで求めることができます。これは確率変数の値が連続しているので、確率はある値からある値までの範囲として考える必要があるためです。図2のa≦X≦bの確率は下の定積分で求めればよいです。

\begin{align} \int_{a}^{b} f(x) dx \end{align}

定積分すればよいと簡単に言いましたが、積分の計算は大変な場合が多いです。高校数学では知識として積分で求められることを知っておけば十分でしょう。

上で確率密度関数の範囲がαとβで区切られていると書きましたが、この範囲が無限に大きい場合なんかでも対象に含まれます。連続型確率分布で最も重要な正規分布がこれにあたります。正規分布については次回に説明します。

離散型確率分布では表を書いて、次の式で平均と分散を求めることができました。

\begin{align} E(X)=\sum_{i=1}^nx_ip_i\\ V(x)=\sum_{i=1}^n (x_i-\bar{x})^2 p_i=\sum_{i=1}^n (x_i)^2 p_i – \bar{x}^2\\ \end{align}

連続型確率分布の場合は次の式で平均と分散を計算することができます。

\begin{align} E(X)=\int_{\alpha}^{\beta} xf(x) dx\\ V(x)=\int_{\alpha}^{\beta} (x-\bar{x})^2f(x) dx = \int_{\alpha}^{\beta} x^2f(x) dx-\bar{x}^2\\ \end{align}

離散型と連続型の式を見比べると似た形になっています。実際のところ式の意味はほとんど同じです。定積分の意味から、連続型の場合は無限に分割した確率ヒストグラムで離散型の平均と分散の計算をした、と解釈することも可能です。こちらも高校数学においては知識としてなんとなく知っておけば問題ありません。
<< 二項分布 正規分布 >>

ホーム » ページ 2

二項分布

成功と失敗のように必ずどちらかの結果となる試行を繰り返して、その結果の出現回数を確率変数Xとする分布を二項分布と言います。数Aの確率で出てきた反復試行の場合とかがこれにあたると思ってかまわないです。例えばサイコロを4回投げて、1か2の目が出る回数を確率変数Xとして確率分布表を作ると下のようになります。

X01234
確率16/8132/8124/818/811/81

各確率は二項定理のときと同じように組み合わせを使って計算しました。同じ二項の言葉が出てきて式もよく似ているので、言葉とセットでどういう場合か覚えると覚えやすいかもしれません。

関連ページ:反復試行の確率

横軸にXの値、縦軸に確率をとってグラフにすると、図1のような左に高い山のようなグラフになっています。必ず山型になるわけではないのですが、試行回数を増やしていけばどんどん左右対称の山型のグラフに近づいていくことがわかっています。

二項分布では一回、二回と試行を行っていくので確率変数の値も0、1、2のように飛び飛びの値を取ります。そのためこのような分布を離散確率分布と呼びます。ただ、高校数学では連続確率分布の言葉は出てくるのですが離散の言葉は出てきません。よく使う言葉なので、「離散」で飛び飛びの値を扱う場合と覚えておけばよいでしょう。

試行回数n、1回で起こる確率をpとしてB(n, p)のように表記します。上の例ではB(4, 0.33(1/3))です。
二項分布の場合、平均E(X)=np、分散V(X)=np(1-p)と簡単に表すことができます。この値の導出はΣを含む式を手数をかけて計算していくと出てきます。この導出は大学レベルの内容で、興味のある人はネットなどで調べてみてください。高校数学ではこの式を適用して具体的な計算ができれば問題ないです。B(4, 0.33)の場合はE(X)=4・0.33=1.33、V(X)=4・0.33・0.67=0.92になります。

<< 確率変数の変換 連続型確率分布 >>

ホーム » ページ 2

反射とCPGとプレ・プログラム反応

動物行動を考えるためには身体動作の考察が必要で、身体動作を考えるためにはその要素にあたる機構の考察が必要です。今回は神経生理学的な身体・神経機構のうち、反射、セントラル・パターン・ジェネレーター(CPG)、プレ・プログラム反応の三つの考え方を紹介することにします。といっても、どの考え方もその機構の解明が現在進行で進められている段階ではあるのですが。

1.反射

反射は生物学的用語としての反射のことで、脊髄反射などのことです。一般に、知覚器→感覚神経→介在神経(脊髄)→運動神経→作動器の順に情報伝達することで起こります。有名な膝蓋腱反射のほか、熱いものを触った瞬間に手を引っ込めるなどの動作も反射に含めることができますが、多様な身体動作のどれを反射に含めるか分類するのは、それほど簡単ではありません。反射の概略は高校生物ページに譲ることにします(23/12/01時点で未作成)。

反射は仲介する神経細胞の数で単シナプス反射(介在神経一つ)、寡シナプス反射(複数の介在神経が介入)に分類されます。このうち神経生理学的な機構がはっきりわかっているのは単シナプス反射のみで、先ほど挙げた膝蓋腱反射などのごく一部の身体作動がここに含まれます。つまりはほとんどすべての反射とみなされる身体作動が、神経生理学的な機構の解明があまり進んでないことを意味します。制御工学のフィードバック機構などを用いたモデルもいくつか考案されています。

2.セントラル・パターン・ジェネレーター(CPG)

セントラル・パターン・ジェネレーター(CPG)、は脊髄にある複数の神経細胞間の協働による種固定的身体動作の基盤(歩行動作などの基盤)のことです。この概念は主に非線形科学において振動子によるリズム現象として説明されていることが多いです。それぞれの神経細胞が振動子として働き、これが複数個相互に接続されることで自律的な興奮の発信を行います。歩行動作などがCPGによる自律的な作動が基盤になっていることが示唆されていますが、その機構が明らかになったとまでは言えません。歩行などの動作は多数の筋肉や関節が関与しています。脊椎は多数の脊椎骨が連なることで成り立っていて、一つの脊椎骨から出る、または入っていく神経接続が一つの身体部位を支配していると仮定しても、歩行などはこれら一単位がいくつも協働して可能になるため、全体としての作動の解析は容易ではありません。脊椎と脊髄の概要、それからCPGとの関係などはページを改めて紹介する予定です(23/12/01時点で未作成)。

3.プレ・プログラム反応

「反射」に関連して、外乱に対する身体動作の安定性をもたらすような、半自動的な反応があります。この反応は、長潜時反射、機能的伸張反射、誘発反応、プレ・プログラム反応など、様々な呼び方がありますが、ここではプレ・プログラム反応を使うことにします。

具体例として、つまずきに対する修正反応を挙げることにします。歩行の最中に予期できない刺激を足にうけたとき、遊脚期では仮想の障害物をまたごうとするような屈筋反射が発生します。この反応は協調的で機能的に適切なパターンをもっており、刺激の種類に対して比較的無関係であることから、単純な反射による単一筋の収縮ではなく、歩行の修正反応として現実に役立つものと考えられます。

またプレ・プログラム反応では、随意的に応答の仕方を変化させることができます。外乱に対する修正反応であることと合わせ、歩行などの身体動作を環境と協調させる、あらかじめプログラムされた反応と考えることができます。歩行動作の生成そのものはCPGが担っているとすると、脊髄に対するより上位の中枢からの下降性の情報のように思えますが、生理学的な対応物は明らかになっていません。

  • 参照文献1:多賀厳太郎『脳と身体の動的デザイン 運動・知覚の非線形力学と発達』(金子書房)
  • 参照文献2:マーク L・ラタッシュ『運動神経生理学講義 細胞レベルからリハビリまで』(笠井達哉/道免和久監訳、大修館書店)

<< 脊椎動物の身体動作 Reafferenzの原理 >>

ホーム » ページ 2

Older posts
Newer posts