マックス・ウェーバーによる近代資本主義の成立の考え方(大塚久雄の考え方)

1.近代資本主義とは

現代の資本主義社会を生きる私たちですが、資本主義社会に生きているからといって資本主義のことがよくわかっているわけではありません。そもそも資本主義の定義が広く、人によりまちまちだったりします。広く営利を目的とする商業活動を認める経済圏を広い意味での資本主義とすると、このような資本主義は別に珍しいものではありません。現在の我々が生きる社会の経済システムは「近代資本主義」(ここでの「近代」は「現代」とほぼ同義です)と呼ばれていて、資本主義の中でもそれまではなかった特徴が近代資本主義の中に含まれていると考えられています。一般に資本主義の言葉で指されるのは、こちらの近代資本主義のことです。

まず話の前提として、近代資本主義は資本主義(上の広い意味での資本主義)と相性がよさげに見える地域ではなく、営利を敵視するような経済圏、つまり西欧の一地域で成立したという事実があります。近代資本主義の定義も、この事実を整合的に説明するような定義になるはずです。そしてこの事実を踏まえて近代資本主義の成立を本格的に検討し最も影響力をもつのが、20世紀前半に活躍したドイツの社会学者マックス・ウェーバーです。マックス・ウェーバーの主著『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』は一般の人にも名が知られるほど有名ですが、専門家からの批判も多い著書です。この著書を敷衍して独自の近代論を展開する佐藤俊樹は、これらの批判は妥当なもので、しかしウェーバーの考え方が根本的に間違っているというのではなく、重要な事実を見逃しているためだと述べています。

マックス・ウェーバーの考え方がどれだけ妥当であるかはひとまず置いておいて、ここでは彼の考え方をだいぶ簡略化して説明したいと思います。といっても私の能力で『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を一人でまとめるのは無理な話なので、この著書の訳者である大塚久雄の「訳者解説」をここにまとめることにします。訳者解説は『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の巻末におよそ40ページあります。大塚久雄による解釈はすごく納得のいくものなんですが、本当にマックス・ウェーバーの考えたことを正確に伝えているかどうかは、怪しいところもあるみたいです。この本はものすごい量の注釈を無視して読み進めば、どうにもわからないというものではなく、訳者解説と本文とを照らし合わせてみて、確かに解説と本文の内容はだいたい一致していると思われます。私の解釈が間違っている可能性も十分にあるので、そこはご注意ください。

2.ウェーバーの用語まとめ

このページで使用したウェーバーの用語で、わかりづらいものや意味が一般の場合と異なるものをまとめておきます。

資本主義暴力を伴わない経済的な営み全般のこと。ある種の合理性を伴った広義の資本主義は古代よりある珍しいものではない。
近代資本主義近代(現代をも含む)に成立した新しい資本主義。簿記を土台として営まれる合理的な産業経営的資本主義。
天職神に与えられた職業であり、専心しなければならない活動。
世俗内禁欲禁欲とはあらゆる欲望を抑制してあることに打ち込む能動性をともなう行為。司祭のように俗世から離れた職業が貴いのではなく、世俗の中でのその職業に専心する方が神から与えられた大切な営みだ、とする考え方。もしくはそのような習慣。
資本主義の精神労働者であっても広く見られる、規則を守りできるだけ経営利潤が多くなるように(自分の利益にならないにかかわらず)進んで働く、心理的様態やその行動様式。
キルへ(教会)とゼクテ(信団)キルへは古い歴史と教権者層(宗教官僚)をそなえた大規模な組織。ゼクテは信仰を同じくする人々が集まって運営する組織であり、各人の自由意思で集っているという前提があった。

3.近代資本主義の成立

3.1 簡単な結論

先に結論を書くことにします。近代資本主義は資本主義と相性がよさげに見える地域ではなく、営利を敵視するような経済圏、つまり西欧の一地域で成立しました。この事実の説明は次のようになります。

禁欲的プロテスタンティズムから派生した「世俗内禁欲」のエートスの持ち主たちが、神からあたえられた天職として自分の世俗的な職業活動に専心した結果、無駄な消費はしないのでお金が残ります。彼らはたまったお金を公のために役立てようとして寄付したり、さらなる投資に回します。その結果、「合理的産業経営を土台とする、歴史的にまったく新しい資本主義の社会的機構」がだんだんと形成されていって、そのうちそのような経営の仕方でないと続けていけなくなります。ここまでくると信仰心はいらなくて、近代資本主義を可能にする「資本主義の精神」へと続いていくことになります。

ただ気をつけないといけないことがあって、実際には複雑な歴史の流れの中で、一つの、しかし重大な変化を禁欲的プロテスタンティズムがつけ加えた、といった具合で、多数の要因の中の重要な一つとヴェーバーは考えていました。

3.2 近代資本主義の合理性と西欧の非営利的なエートス

ウェーバーの言う「資本主義」は暴力を伴わない経済的な営み全般のことで、こういう広義の資本主義は古代からある珍しいものではないです。西欧近代に出現した資本主義は確かにそれまでと違う特質を持っています。ウェーバーは近代資本主義の特徴として産業経営的資本主義を挙げています。これは簿記を土台として営まれる合理的な産業経営、その上に築かれていく利潤追求の営みを指します。ウェーバーが重視したのは、合理的な産業経営を可能とする、人々の倫理的雰囲気、行動様式の方で、これが「資本主義の精神」や近代資本主義の「エートス」と呼ばれるものです。そして資本家のみならず、多くの労働者も同様に「資本主義の精神」の担い手になったということが重要です。労働者たちが、あたかも天職があたえられたかのように工場での労働に励む、そういった精神的な特性をもつことで初めて、技術革新に依拠する産業資本主義が可能となりました。

3.3 「資本主義の精神」のもととなった天職概念(世俗内禁欲)

結果として「資本主義の精神」へと至ることになった心理が「天職」概念、およびそれとほぼ同義の「世俗内禁欲」だと考えられています。天職の方は一般的な日本語の天職と類似しますが、日本語の意味の生まれつき一番向いている仕事といったものではなく、神に与えられた職務として明確に意識されるものです。神に与えられた仕事であるので、脇目も振らずその仕事に専心するわけです。

一方「世俗内禁欲」の字面からは、これが神に与えられた天職とほぼ同義というのは違和感があると思います。この「禁欲」という言葉は、あらゆる欲望を抑制して(禁欲)、そのエネルギーの全てを目的に注ぎ込む、こういった行動様式を指します。ですから禁欲して行動を行わないのではなく、むしろある目標に向かって突き進むとても能動的な行動様式のことです。神に与えられた「天職」であるのだから、他には眼もくれずにその仕事に打ち込むということです。

3.4 禁欲的プロテスタンティズムから世俗内禁欲のエートスへ

ウェーバーによると天職観念はルッターが起源です。天職の概念は、世俗生活から切り離された修道院生活が特別なのではなく、むしろ世俗の中での聖潔な職業生活の方が神から与えられた大切な営みだ、とする考え方です。しかしルッター派から世俗内禁欲は生まれず、カルヴィニズムなどの禁欲的プロテスタンティズムの信徒たちにより、日常生活と彼らの信仰とのかかわり合いのなかで、世俗内禁欲という形に鍛え上げられていくことになります。

ウェーバーは教会(Kirche)と信団(Sekte)を使い分けていて、大塚によるとSekteは普通の用法をそのまま訳すと意味が通じなくなるので、この本では信団と訳したそうです。教会の方は、古い歴史を持ち、信徒への救いの授与を独占する教権者層(宗教官僚)をそなえた大規模な組織です。これに対して「信団」の方は、すでに神から救いを当てられていると信じている人たちが、そうした信仰を同じくする人々によって、みずからの自由意思に基づいてつくり上げられた集団です。前者がカトリックの教会で後者がプロテスタントの組織と言ってよいでしょう。信団に所属する彼らは、自分が神に救いを与えられているという信念から、自分の行動を神の説く(とされる)行動へと一致させようとし、天職概念または世俗内禁欲のエートスが養われていきます(ここは社会学者の大澤真幸の考え方を借用しました)。

3.5 世俗内禁欲から資本主義の精神へ(結論)

まず近代資本主義は、一見資本主義と相性の悪そうな営利を敵視するような経済圏、つまり西欧の一地域で成立しました。近代資本主義成立の理由を考えるには、この事実を説明するものでなくてはなりません。近代資本主義は産業資本主義であり、合理的産業経営を営んでいくには、経営者だけでなく多くの労働者の側に、規則を守りできるだけ経営利潤が多くなるように進んで働く、そういった行動様式が必要です。それが「資本主義の精神」と呼ばれる心理的様態、行動様式となって現れる精神性です。そしてこの精神を結果として産み出したのがプロテスタンティズムであり、それが故に「近代」の資本主義は西欧においてのみ成立可能でした。

ルッターを起源にして、世俗生活から切り離されるのではなく、世俗の中での聖潔な職業生活の方が神から与えられた大切な営みだとする、「天職」概念および世俗内禁欲の考え方が広く共有されている人たちが現われます。彼らはあらゆる欲望を抑制(禁欲)して、神に与えられた天職である各仕事に専心することになります。世俗内禁欲を鍛え上げていくのは、実際にはルッター派ではなく、カルヴィニズムなどの禁欲的プロテスタンティズムの信徒たちです。そこでは「ゼクテ」と呼ばれる、すでに神から救いを当てられていると信じている人たちが、そうした信仰を同じくする人々によって、みずからの自由意思に基づいてつくり上げられた組織が営まれていました。その組織は教会のような古い歴史と教権者層(宗教官僚)をそなえたものではなく、各信徒がみずからの自由意思に基づいて、組織のあり方を作り変えていくような組織です。

禁欲的プロテスタンティズムの信徒たちは、自分の世俗的な職業活動に専心し、得られた収益を公のために役立てようとして寄付したり、さらなる投資に回します。その結果、組織のあり方や技術・知識体系を自ら作り変えていくような、新しい合理性を持った社会機構がつくり上げられることになります。このような機構が成立してしまえば、それまでの合理性をもとにした機構では利益を得られず営業できなくなってしまうので、やがては新たな合理性を備えた組織へと移り変わっていきます。ここまでくると世俗内禁欲にあった信仰心は必要なくて、明確な信仰ではないけれど自ら規則を守って仕事に勤しむ、「資本主義の精神」へと変わっていきます。このような経緯もあって、科学技術の発展(ここにも「資本主義の精神」と同様の性質が認められる)と結びついた産業経営的資本主義が、西欧において誕生することになります。

3.6 ウェーバーの考え方の問題点

社会学者の佐藤俊樹による、ウェーバーの考え方が根本的に間違っているというのではなく、重要な事実を見逃しているために事実を説明できていない、という意見を1節で挙げました。近代資本主義が科学技術と結びついた産業資本主義であることは間違いなくて、ウェーバーの考え方はこの「新しい資本主義」の誕生を説明しきれていないように思えます。ウェーバーが挙げているのは、簿記を土台として営まれる合理的な産業経営などで、これは実際にはすでに他の地域に実在していたようです。重化学工業の基盤となるような産業経営的資本主義と禁欲的プロテスタンティズムの関係を、整合的に説明する議論を付け加えなければならないでしょう。その答えになるかはわからないですが、今度は佐藤俊樹の『近代・組織・資本主義』の議論をもとに考えてみる予定です。

  • 参照文献:マックス・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫、大塚久雄訳)

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確率変数の変換

確率変数に関わる式で重要なものに、確率変数の変換と呼ばれるものがあります。先に式を書いておきます。

\begin{align} Y=aX+bのとき\\ E(Y)=E(aX+b)=aE(X)+b\\ V(Y)=V(aX+b)=a^2V(X)\\ \sigma(Y)=\sigma(aX+b)=|a|\sigma(X) \end{align}

この式は元の確率変数XからY=aX+bの形の新しい確率変数を作ったときに、元の確率変数Xの平均E(X)、分散V(X)、標準偏差σ(X)を使って、新しい確率変数のE(Y)、V(Y)、σ(Y)を計算できますよ、というものです。

この式の導入は割と簡単にできますので、そちらも示しておきます。新しい確率変数でも元の確率変数と同じ確率を持つので、定義式に従って式を立てて式変形していくと上の形がでてきます。

\begin{align} E(aX+b)=(ax_1+b)\cdot p_1+(ax_2+b)\cdot p_2 + \cdots + (ax_n+b) \cdot p_n\\ =(ax_1\cdot p_1 + ax_2 \cdot p_2 + \cdots ax_n \cdot p_n)+(b\cdot p_1 + b\cdot p_2 + \cdots + b\cdot p_n)\\ =a(x_1\cdot p_1 + x_2 \cdot p_2 + \cdots + x_n \cdot p_n)+b(p_1+p_2+\cdots + p_n)\\ =aE(X)+b\\ V(aX+b)=(ax_1+b-\bar{x})^2\cdot p_1+(ax_2+b-\bar{x})^2\cdot p_2+\cdots+(ax_n+b-\bar{x})^2 \cdot p_x\\ =\sum_{i=1}^n (ax_i+b-\bar{Y})^2 p_i\\ =\sum_{i=1}^n (ax_i+b-(a\bar{X}+b))^2 p_i\\ =\sum_{i=1}^n (ax_i-a\bar{X})^2 p_i\\ =\sum_{i=1}^n a^2(x_i-\bar{X})^2 p_i\\ =a^2\sum_{i=1}^n (x_i-\bar{X})^2 p_i=a^2V(X)\\ \sigma(aX+b)=\sqrt{V(aX+b)}=\sqrt{a^2V(X)}=|a|\sqrt{V(X)}=|a|\sigma{(X)} \end{align}

この式は使えることができれば問題ないです。平均は定義式から考えて、YではXがa倍されているのでE(X)でもa倍されてaE(X)に、+bで全体が底上げされているのでYでも同じように底上げされる、くらいに解釈しておけば覚えやすいかもしれません。分散も定義式から考えて、(Xi-Xバー)2のところで二乗されるのでa2E(X)になって、+bのところは全体の値が底上げされても平均との差はまったく変わらないので分散には影響しないからV(Y)の式に現れない、くらいの解釈でよいでしょう。標準偏差は分散の√をとったものなのでそのままです。ただし√a2(a2の√です)は、二乗を先にして√をとることから|a|なので、ここは気を付ける必要があります。

この式は、正規分布を標準正規分布に変換するために使われていたりして重要な式ですが、普段これを使って変数変換するとかはそんなにないと思います。計算練習のために一題やっておきます。1枚のコインを2回投げて表の出る回数を確率変数Xとし、新しい確率変数Y=3X+2を作るとします。Xの確率分布は下の表になります。

X012合計
P(X)1/41/21/41

そしてE(X)、V(X)、σ(X)の計算は下の通りです。

\begin{align} E(X)=0 \cdot \frac{1}{4} + 1 \cdot \frac{1}{2} + 2 \cdot \frac{1}{4}=1\\ V(X)=(0-1)^2\cdot \frac{1}{4} + (1-1)^2\cdot \frac{1}{2} + (2-1)^2 \cdot \frac{1}{4}=\frac{1}{2}\\ \sigma(X)=\frac{1}{\sqrt2} \end{align} これらの値と上の公式を使ってE(Y)、V(Y)、σ(Y)を計算すると、下のように計算できます。 \begin{align} E(Y)=E(3X+2)=3E(X)+2=3\cdot1+2=5\\ V(Y)=V(3X+2)=3^2V(X)=9\cdot \frac{1}{2}=\frac{9}{2}\\ \sigma(Y)=\sigma(3X+2)=|3|\sigma(X) =3\cdot \frac{1}{\sqrt2}=\frac{3}{\sqrt{2}}\\ \end{align}

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確率変数の平均と分散

高校数学で「確率分布」という分野があって、これはいわゆる「統計学」のことです。昔は大学で履修していた統計学ですが、新課程になって事実上大学入試に必須になってしまいました。自分でデータ取って解析とかやって初めてやってることの意味が分かる分野だと思うので、自分としては大学に入ってからデータ取るのとかと一緒にやるので十分だと思ってます。

とはいえ大学入試に必須である限り高校でやらざるを得ません。正直、自分が高校の時にやって意味を読み取れたとは思えないです。とりあえずなんとなくわかった気がすれば覚えやすくなるので、「わかった気がする」ページを目標にして書いていこうと思います。

まずは確率分布表が与えられた時の平均値(期待値)と分散の出し方からです。確率分布において最も重要な数値が平均と分散です。標準偏差は分散の√をとったものなのでほぼ同じものと思ってよいです。ある値Xがある確率で起こるとき、これを確率変数Xと呼び、各Xの値に対する確率を表にしたものが確率分布表です。例えばサイコロを2回投げて1の目が出る回数をXとおくと、確率分布表(この形の分布を離散型確率分布と呼びますがまた今度説明します)は下のようになります。

確率変数X012合計
確率P(X)25/3610/361/361

Xの平均とはこの場合、2回のうちXが平均して何回出るか、というものです。分散は平均からどれくらい離れた値をとるか、平均からの散らばり具合を示す値です。まず平均と分散の一般的な式を示します。x_iがi番目のデータ値でxバーがxの平均、データ数はNです。

\begin{align} E(X)=\frac{x_1+x_2+\cdots+x_n}{N}\cdots①\\ V(X)=\frac{(x_1-\bar{x})^2+(x_1-\bar{x})^2+\cdots+(x_n-\bar{x})^2}{N}\cdots②\\ \end{align}

そして確率分布表が与えられた場合の平均と分散の式が次の形になります。

\begin{align} E(X)=\sum_{i=1}^nx_ip_i=x_1\cdot p_1+x_2\cdot p_2+\cdots+x_n\cdot p_n\cdots③\\ V(X)=\sum_{i=1}^n (x_i-\bar{x})^2 p_i=(x_1-\bar{x})^2\cdot p_1+(x_2-\bar{x})^2\cdot p_2+\cdots+(x_n-\bar{x})^2\cdot p_n\cdots④\\ \end{align}

これを使って上の確率分布表における平均と分散を求めると下のようになります。

\begin{align} E(X)=0\cdot\frac{25}{36}+1\cdot\frac{10}{36}+2\cdot\frac{1}{36}=\frac{1}{3}\\ V(X)=(0-\frac{1}{3})^2\cdot\frac{25}{36}+(1-\frac{1}{3})^2\cdot\frac{10}{36}+(2-\frac{1}{3})^2\cdot\frac{1}{3}=\frac{5}{18}\\ \end{align}

③と④の式の証明は、たぶん大学レベルの統計学の本には載っていると思うので、気になる人はそちらを参考にしてみてください。ここではちょっとだけ、上の表と①と③の式を見比べて、確率分布表が与えられたときの平均の意味を考えてみます。①の式で全ての値を足した後で全データ数で割ってます。ここで考えるための例「データ数が3でデータが1,2,3」で式を立てると、(1+2+3)/3=1/3 +2/3 +3/3です。右辺の形は分布表の計算過程の形とよく似ています。上の分布表で確率の分母が36なのは、サイコロを二回振るので全通り数6×6=36であるためです。なので上の表は、全データ数が36で0が25個、1が10個、2が1個のデータ数だったと考えれば、

\begin{align} \frac{0\cdot25+1\cdot10+2\cdot1}{36}=0\cdot\frac{25}{36}+1\cdot\frac{10}{36}+2\cdot\frac{1}{36}\\ \end{align}

となって確かに①と③で同じ形になります。各確率に、平均を求める際のデータ値を足したものを全データ数で割る操作が一部含まれている、と考えると考えやすいでしょうか。分散もこれと同様の考え方ができます。こんなふうにそこに自分なりの意味を見つけ出すと、式の覚えやすさと思い出しやすさが格段に上がります。数学の式をなかなか覚えられないという人は、自分なりの意味を見つけ出してみてください。

最後に分散のもう一つの式を示します。導入は④の式を展開して計算すると割と簡単にできますが、ここでは省略します。

\begin{align} V(X)=\sum_{i=1}^n (x_i-\bar{x})^2 \cdot p_i=\sum_{i=1}^n (x_i)^2 \cdot p_i – \bar{x}^2\\ \end{align}

二乗の平均-平均の二乗とか呼ばれている形で、手計算するときはだいたいこちらの方が楽なのでこちらを使ってみてください。この式にはそれとは別の使い道があるのですがそれは大学レベルの話なので、今はこっちの方が計算が楽だと覚えておけば大丈夫です。こちらの式でも計算しておきます。

\begin{align} V(X)=0^2\cdot\frac{25}{36}+1^2\cdot\frac{10}{36}+2^2 \cdot \frac{1}{36}-(\frac{1}{3})^2\\ =0+\frac{10}{36}+\frac{4}{36}-\frac{1}{9}=\frac{5}{18} \end{align}

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条件付き確率

高校数学の確率において理解が難しいものの一つに条件付き確率があります。これはある事象が起こった後、その後に起こる事象の確率が前の事象の結果に左右される場合です。日常的には出来事とはそのようなものに思えますが、あらためて確率として考えると頭が痛くなる事態が待っていたりします。

まずは記号と式の定義を先に書いておきます。事象Aが起こったという条件のもとに事象Bが起こる条件付き確率をPA(B)またはP(B|A)と書きます。どちらもよく使われるのですが、高校数学ではPA(B)が使われることがほとんどですので、このページではこちらを使うことにします。条件付き確率PA(B)は次のように式で表せます。

\begin{align} P_A(B)=\frac{P(A \cap B)}{P(A)}…①\\ P(A)P_A(B)=P(A \cap B)…②\\ \end{align}

個人的には②の方が覚えやすくて、こちらを覚えておけば両辺をP(A)で割れば①の式も出てくるので、下を覚えて必要があれば式変形するので構わないと思います。②の式では「A∩B」は「Aが起きてAが起きた条件でBが起きる」のと同じという意味が読み取れます。もしAが起きることがBに影響しない、つまりAとBが独立ならP(A∩B)=P(A)P(B)なので、独立な場合の式と比較すると②の式は覚えやすいと思います。

条件付き確率の問題を解く場合、条件付き確率をそのまま考えればあっさりわかる問題と、上記の式をもとに計算していかないといけない場合があります。ここでは条件付き確率をそのまま考えることのできる場合の例を1題示します。

「12本の中に当たりが4本入っているくじがあるとします。AとBがこの順でくじを引くとき、Aがあたる事象をA、Bがあたる事象をBとおいて条件付き確率を考えます。ここではAが当たった条件でBが当たる確率を求めます。」

Bが引くときにはすでにAが引いて当たりを引いているので、11本のくじの中に当たりが3本ある状態で引きます。よってAが当たった条件でBが当たる確率PA(B)は3/11です。気を付ける必要があるのは、PA(B)はあくまでBが当たる単独の場合の確率で、Aが当たってかつBも当たる確率P(A∩B)の場合ではないことです。この確率は②の式で計算でき、P(A∩B)=P(A)PA(B)=(4/12)×(3/11)=1/11となります。これは直観的にも納得のいく計算になっています。式の形から三つ項のうち二つが分かれば残り一つもわかるので、P(A∩B)を求めるのにPA(B)を利用してもよいし、PA(B)を求めるのにP(A∩B)を利用してもよいです。でもこの問題ではP(A∩B)を求めるのが大変で、PA(B)を式ではなく直接考えた方が早いです。

問題を解くだけならこれで終わりでよいのですがもうちょっと考えてみます。Bが当たる確率P(B)はどう考えればよいでしょう。さっきPA(B)を計算したので、これにAが外れた条件でBが当たる確率PAバー(B)を計算して足してやると、P(B)=3/11+4/11=7/11となりそうな気がします。でも12本のうち4本当たり(Aの結果により若干変わりますが)のくじから1本のくじを引いてそれが4/12より明らかに大きな7/11の確率というのは納得がいかないです。

何の考慮が足りなかったかというと、Aが先にくじを引いてしまっていることの考慮です。Bがくじを引くというのは、Aがくじを引いてかつBが続けてくじを引くと考える必要があります。したがってP(B)=P(A∩B)+P(Aバー∩B)の式で考えることになります。計算を下に示します。

\begin{align} P(A)=\frac{4}{12}=\frac{1}{3}\\ P_A(B)=\frac{3}{11}\\ P(A \cap B)=\frac{4}{12}\cdot\frac{3}{11}=\frac{1}{11}\\ P(\overline{A})=\frac{8}{12}=\frac{2}{3}\\ P_\overline{A}(B)=\frac{4}{11}\\ P(\overline{A} \cap B)=\frac{8}{12}\cdot\frac{4}{11}=\frac{8}{33}\\ P(B)=P(A \cap B)+P(\overline{A} \cap B)\\ =\frac{1}{11}+\frac{8}{33}=\frac{11}{33}=\frac{1}{3}\\ \end{align}

計算の結果出てきた値は1/3、つまり先に引くAも後に引くBも結局は同じ確率になる、ということです。Aの結果によりBの結果が変わると言っても、Aの結果は偶然で決まるのだから次に引くBが当たる確率も結局はAと同じく偶然同じ値に決まる、ということを言っていると解釈すれば納得できる気もします。

もう一つ、PB(A)はどうなのか考えてみます。P(A∩B)とP(B∩A)は同じなので、②の式でAとBを入れ替えてP(B)PB(A)=P(B∩A)が成り立つはずです。ところでPB(A)をどう解釈すればよいでしょうか。順番としてはAが先に起こって次にBが起こるので、「Bが起こったとわかった上で先に起こったAの確率」と考えればよさそうです。P(A∩B)=P(B∩A)、先ほど計算したP(B)を使って、PB(A)を計算してみます。

\begin{align} P(B)=\frac{1}{3}\\ P(B \cap A)=\frac{1}{11}\\ P_B(A)=\frac{\frac{1}{11}}{\frac{1}{3}}=\frac{3}{11}\\ \end{align}

このようにある結果がわかった後で先の確率を推測することが可能です。さらにPB(A)=3/11でPA(B)と同じ値になっています。これもP(A)=P(B)となるのと同じ考え方ができそうですが、なんだかよくわからない感じが残ります。このわからなさは、本当に数学感覚のある人以外は、これからずっと付き合うことになると思います

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反復試行の確率

同じ試行を何度か繰り返すときの確率を反復試行の確率といいます。ある試行が次の試行に影響するわけではないので、独立試行の確率の一例ともいえますがあまり気にしなくてよいかもしれません。まずは定義を先に書いておきます。n回同じ試行を繰り返すとき、事象A(その確率はp)がr回出るときの確率は以下の通りです。

\begin{align} {}_n \mathrm{C}_r p^r (1-p)^{n-r} \end{align}

具体例の方がわかりやすいでしょうから、サイコロを続けて何度か振る場合で説明してみます。「サイコロを3回振って、1または2の目が2回出る確率」を知りたいとします。サイコロを1回振って1または2の目が出る確率は、2通り/全6通り=1/3です。1または2の目が出ない確率は1-1/3=2/3です(余事象)。サイコロを3回振って、1または2の目が2回出て3から6までの目が1回出るということですから、1/3×1/3×2/3で2/27の確率に思えます。1回目と2回目に出て3回目に出ないという確率ならこの値で正しいです。実際には1回目と3回目、2回目と3回目に出る場合もあるので、この3通りの確率を足す必要があります。1回目と3回目に出る場合の確率は1/3×2/3×1/3で、さきほどと同じ2/27になります。残り一つの場合でも同じです。今計算したことを表にまとめてみます。

1回目2回目3回目確率
(a)一通り目〇(1/3)〇(1/3)×(2/3)2/27
(b)二通り目〇(1/3)×(2/3)〇(2/3)2/27
(c)三通り目×(2/3)〇(1/3)〇(1/3)2/27

「サイコロを3回振って、1または2の目が2回出る」場合は(a)、(b)、(c)の3通りあります。この3通りとも同じ確率2/27なので、この確率を3倍して、求める確率は2/27×3=2/9です。「3通り」である理由は、1または2の目が出る場合を3つの試行の中から2つ選ぶと考えればよいためです。3つの中から2つを選ぶ場合の数はいわゆる「組み合わせ」で、3C2=3C1=3です。上の表は、3つの中から2つ選ぶのも残りの1つを選ぶのも同じ通り数になる、ということのよい例になっています。

では最後に式の意味をもう一度考えることにします。試行n回中に事象Aがr回出る場合は、事象Aが何回目の試行で出るかの違いにより何通りかあるのですが、どの場合も同じ確率pr×(1-p)n-rになります。確率が同じなので、これに何通りあるかをかけることで、求める確率「試行n回中に事象Aがr回出る確率」がわかります。何通りあるかはn個の中からAがr個出る場所がある(組み合わせの考え方)と考えて、nCr通りです。したがって求める確率「試行n回中に事象Aがr回出る確率」は、nCrpr(1-q)n-rです。

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