重複順列

後々の説明のために、確率の前に重複順列について説明しておきます。「n個の中から重複を許してr個順番に並べる並べ方」を重複順列と呼びます。この一文だとどういうことかわかりづらいので具体例で説明します。

A、B、C、D、Eの5個の中から3個選んで順番に並べる場合は順列です。一番目は5通りあって、二番目は一番目のものがなくなっているのでその各々に4通り、同じように三番目はさらに一つ減ってその各々に3通り、合計5×4×3=60通りあります。これに対して「重複を許して」というのは一度選んだものをまた選んでよいことを意味しています。ということで二番目以降も減らずに一番目と同じ5通り、三番目も5通りなので5×5×5=125通りです(図1)。以上より「n個の中から重複を許してr個順番に並べる」重複順列の並べ方はn×n×…×n(nをr個かける)=nrです。

関連ページ:順列

数学の問題を解くうえではもうこれ以上話すことはありません。ただ、この後の事象が連続して起こる場合を考えるにあたって、順列の考え方を振り返っておくとよいことがある…かも。順列5P3は「5つの中から3つ選んで並べる」という一つの事象に思えます。しかし一番目を選んでその条件で二番目を選んでさらにその条件で三番目を選ぶので、「各番目を選ぶ」ということがすでに一つの事象で、これが連続して起こる複合的な事象にみえます。二番目を選ぶときは一番目をすでに選んだという条件のために一つ減るわけで、この後出てくる「条件付き確率」と同様の考え方に思えます。重複順列では一回目の結果が次以降の選び方に影響しないわけで、「独立試行」の場合に類似します。「場合の数」と「確率」の違いはありますが、高校数学の「確率」を一通りやり終わった後で振り返ってみると、何か発見があるかもしれません。

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組み合わせ

高校の確率で順列の次に重要なのが「組み合わせ」です。「組み合わせ」は複数個の中からいくつか選ぶ選び方のことです。順列をもとに説明されることが多く、計算式も順列をもとにした形になっているので、ここでも順列をもとに説明します。

説明の前に組み合わせの記号と計算式を書いておきます。n個の中からr個選ぶときの場合の数は下のようになります。

\begin{align} {}_n \mathrm{C}_r=\frac{{}_n \mathrm{P}_r}{r!} \cdots ①\\ =\frac{n!}{(n-r)!r!} \cdots ② \end{align}

計算の具体例を示しておきます。7個の中から3つ選ぶ選び方7C3の計算は下となります。

\begin{align} {}_7 \mathrm{C}_3=\frac{{}_7\mathrm{P}_3}{3!}\\ =\frac{7 \cdot 6 \cdot 5}{3 \cdot 2 \cdot 1}=35\\ \end{align}

このようにあまり大きくない数の具体的な計算は①式で簡単に計算できますが、②の形もよく利用されるので覚えておくと後に役に立ってくれます。順列のページで示したようにnPr=n!/(n-r)!と式変形できるので、これをr!で割ってnCr=n!/(n-r)!r!の式が出てきます。

順列nPrはn個の中からr個選んで順番に並べる場合で、組み合わせnCrはn個の中からr個選ぶ場合です。組み合わせに比べて順列では、「順番に並べる」ことでその並べ方の数だけ増えてしまっているので、余計に数えてしまった分だけ割れば組み合わせの場合の数になる、①の式はそんな意味の形になっています。言葉による説明だけだと、順列の方が場合の数が多いことがよくわからないかもしれません。ここではAからGの7つからA、B、Cの三つを選んだ場合で考えてみます。順列ではこの三つを順番をつけて並べるので図1のように6通り(3!通り)の並べ方があります。

組み合わせではこの6通りの並べ方の区別をつけずに一つの同じ場合として考えるので、順列の方が組み合わせの場合の6倍多くなっています。A、B、C以外の組み合わせでも同じように6倍になっているので、結局のところ順列を全通り求めておいて6で割ってやれば組み合わせ全通り数がわかります。組み合わせがわかれば順列もわかることも意味していますが、順列を求める方が断然楽なので、楽な方の順列を先に求めてから組み合わせの通り数を求めていることになります。
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順列

場合の数でもっとも基本となるものが「順列」です。もう一つの重要なものに「組み合わせ」があって、これも順列の考え方で理解できます。

順列の説明の前に、順列の数式表現で使われる「階乗」を示しておきます。例えば4×3×2×1のような計算を4!と記号表現して4の階乗と読みます。4に1減らした3を掛けて、1になるまで同じように1ずつ減らした数を順番にかけていきます。

\begin{align} n!=n\cdot(n-1)\cdot(n-2)~\cdots~3\cdot2\cdot1\\ 0!=1 \end{align}

注意点として、0!=1と定義されています。もうこれはこうしないと都合が悪いから、くらいに思って覚えておいてください。

では順列の説明に移ります。順列は順番に番号をつけて並べる場合の並べ方の数です。先に具体例を示します。A、B、C、D、Eの5人から3人選んで順番に並べるときの場合の数は、一番目に5人の中から一人で5通り、二番目は一人減って残り4人から一人選ぶので4通り、三番目はさらに一人減って3人から一人で3通りなので5×4×3=60通りの並べ方があります。これを全通り図示すると図1となります。

例えば一番上の樹形図は1番目にAを選んだ場合で、二番目がBからEまで4通りあってさらにその4通りごとに3通りあって4×3通り、これが一番目に選んだAからEまでの5通りあるので5をかけて5×4×3通りです。積事象「AかつB」はAの通り数×Bの通り数になる、という考え方がもとになっています。

関連ページ:場合の数

順列n人からr人選んで並べるときの記号表現は下の通りです。

\begin{align} {}_n \mathrm{P}_r = n \cdot (n-1) \cdot (n-2) ~\cdots~ (n-r+2) \cdot (n-r+1)\cdots①\\ = \frac{n!}{(n-r)!} \cdots ② \end{align}

①と②の二通りの表現があります。①の方は最後(n-r+1)までかけるのがわかりづらいところで、単純に5P3のような場合は5×4×3で計算した方が早いです。でも式で表現することも重要で、この式もできたら覚えるか考えて導き出せるようにしておいてください。②の表現の方が覚えやすいので、ついでに覚えておくと組み合わせの式表現のときに少し役にたちます。②の式は、①に(n-r)!を分母分子にかけることで下のように導出できます。

\begin{align} {}_n \mathrm{P}_r = n \cdot (n-1) \cdot (n-2) ~\cdots~ (n-r+2) \cdot (n-r+1)\cdots①\\ = \frac{n \cdot (n-1) \cdot (n-2) ~\cdots~ (n-r+2) \cdot (n-r+1) \{\cdot (n-r) \cdot (n-r-1) ~\cdots~ 2 \cdot 1\}}{\{(n-r) \cdot (n-r-1) ~\cdots~ 2 \cdot 1\}}\\ =\frac{n!}{(n-r)!} \end{align}

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中学数学の確率から高校数学の確率へ

かつては高校数学でも選択だった確率ですが、今は中学でもそこそこの時間が割かれています。確率について中学数学のページでも説明しているのですが、ここでも簡単におさらいしておきます。

まず確率は不確定な度合いを数値的に表現できないか、という話です。必ず起こるときを1、絶対に起こらないときを0として、起こるか起こらないかの度合いを0から1の間の数値を使って推し量るためのもの、と理解しておけば問題ないです。確率は「その場合の数」/「全通りの数」で計算することができるので、確率を考えるときはまず、場合の数から考えるのが一般的です。場合の数の計算方法は確定されたやり方があるのですが、中学数学ではもっぱら規則的に各場合を書き出してみて場合の数を具体的に調べていました。各場合の数を見つけて、「その場合の数」/「全通りの数」で確率を計算するところは高校数学でも同様です。高校数学では場合の数の計算方法の抽象度が上がっていて、記号を使って式で表現することも重要な項目となっています。

詳しくは順列のページで紹介しますが、たとえば5人の中から3人選んで順番に並べる場合の数は

\begin{align} {}_5 \mathrm{P}_3 = 5 \cdot 4 \cdot 3\\ = 60 \end{align}

のように記号を使って式を書いてから計算していきます。記号を使って一般化するというのは重要で、記号化することでより抽象化した思考が可能になったりします。記号を用いた式表現は本にもよく使われるているので記号を読めるようにしておくと後々役に立つでしょう。

場合の数で一番基本になるのは「順列」と「組み合わせ」で、まずはこの二つのページを作る予定です。順列と組み合わせの考え方を応用した項目はたくさんあって、一通り確率ページを作成した後に作成するつもりです。場合の数の次は「確率」についてで、ある事象の確率、事象が連続して起こる場合の確率の順でページを作っていきます。

順列 >>

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動物行動の説明における対立的な概念

動物行動を説明することにおいて、対立的な考え方がいくつかあって、それらはだいたい生理学的または心理学的な概念です。生理学や心理学を無視して動物行動を説明するのは無理なので、それらの考え方のいくつかをざっと示しておこうと思います。

上で述べたような対立的に使用される言葉として、「生得説と習得説」、「外からのアプローチと内からのアプローチ」、「極所論と全体論」、「内部精神物理学と外部精神物理学」など、まあたくさんあります。これらの概念の対にはつながりがあって、ある立場の人はこの組み合わせといった感じに、ある種の派閥が形成されていたりします。動物行動の具体的説明の前に、これらの概念対について簡単に見ておきましょう。これらの概念自体がある考え方を反映してくれているので、考え方全体を概観する手助けになってくれるはずです。

1.概念対の説明

1.1 生得説と習得説

動物行動は生得的に固定されたものか、後天的に習得されるものか、という議論だと思ってください。本当は単純な話ではないんですがあえて単純化すると、たとえば「本能行動」は種ごとに生得的に決定された行動で、「学習」は後天的に獲得された、もしくは変化した行動です。ある程度神経系の発達した動物なら、本能行動も学習も両方の行動を取ることに異論はないと思います。これだけだと何の問題もないように見えますが、動物行動学の根幹をなすような複雑な様相を呈するので、これは別のページで説明する予定です。

1.2 外からのアプローチと内からのアプローチ

動物は基本、ある行動から次の行動へと行動を連接し続けることで生活しています。ある行動と他の行動の区別はそんなに峻別できるものかという疑問は生じますが、たとえば求愛行動とか、確かにそれとして人の目に現れてくる行動があります。それぞれの行動として区切ることが可能だとして、生物学では一般に外部刺激の入力を始発項として行動として外部に出力される、と考えます。高校生物なんかは完全にこの考え方を採用しているのですが、実際には生体内部の自律的作動が同じくらいに重要です。簡略化せざるを得ない「高校生物」では仕方ないと思うのですが、「入力・出力」モデル以外の考え方が浮かばなくなってしまう危険性はあるでしょう。

上の事柄に関連して、動物行動の始発項を外部に置くか内部に置くかの違いによる、「外からのアプローチ」と「内からのアプローチ」の二つの立場があります。図1にこの二つの考え方の略図を示しておきます。一見、始発項を外部に置くか内部に置くかだけの図に見えますが、他の対立項の出発点をも含んでいます。

連接・循環しているはずの動物行動をどう区切るかという話に戻ると、生体の外からその生体を観察するのか、生体の側から考えるかで変わってきます。図1の(a)「外からのアプローチ」は観察者が生体の外にいて、与えた刺激にどう反応するかという考え方を反映しています。動物行動を観察することは動物行動学の基本であるのは今でも変わらなくて、人間が動物行動を観察するのだから(a)の外からのアプローチ以外にあり得ないようにも思えます。しかし人間が確実に観察できるのは動物の行動だけです。その行動の意味を観察者が読み取るのに、動物の主体や心的現実(意識やこころへの現れ)を無視して動物にとっての意味を読み取れるものでしょうか。

生体の主体の側からの視点で考えられているのが(b)「内からのアプローチ」です。生体の内側から観察することが可能かという問題点があって、その一つの答えが生理学的機構と平行しながら観察することと言えます。図1(b)に「再求心性インパルス」という生理学的概念が突如出てきているのは、そんな事情を反映してだと思われます。再求心性インパルス説についてはページを改めて説明します。

1.3 内部精神物理学と外部精神物理学

「平行論」と呼ばれる、身体という物理的構造の状態と平行して心的現実が現れる、とする立場があります。身体(特に神経系)と心的現実の対応を認めながら単純な因果関係を否定する立場といってもよいでしょう。「外からのアプローチ」にしろ「内からのアプローチ」にしろ、行動時の主体における「観察可能な」何かを調べる必要があります。主体の心的現実の現れが本当に知りたいものだとしても、この現れは外部からは観察不能なので、心的現実と平行して現れる「生理学的(特に神経系の)変化」や「外部に表出される行動」を観察することになります。心的現実と身体内部の対応関係をみたのが内部精神物理学で、身体外部の行動との対応関係をみたのが外部精神物理学です。前者の代表格にゲシュタルト心理学、後者の代表格に認知心理学が挙げられます。それらの理論を押し進めた代表的な研究者たちが反目していたわけではないのですが、その後対立的な関係になって現在は後者の行動主義的な立場が優勢になっているという事情があります。

1.4 局所論と全体論

神経生理学というか、脳科学あたりで割と目にする概念です。高等哺乳類くらいでは、大脳皮質のどの部位はどういう役割を担うかというのがだいたい決まっています。批判を恐れずに簡略化して言えば、局所論は局所的に役割が決まるのだから各領域を調べれば脳機能が解明できるという立場で、全体論は他領域との関わり合いの中でその領域の役割が決まっているのだから全体との関係も考慮しないといけないという立場です。相手の考え方を理解しないまま不毛なすれ違いが起こっていることが多いので、これらの言葉が出てきたらそのことに注して読む必要があります。

2.多数の概念の絡まり合い

それぞれの概念対どうしにおいて相性のよい組み合わせがあったりします。上で示した概念で言えば、たとえば「外からのアプローチ」、「外部精神物理学」、「局所論」の組み合わせで考えている人が一番多く見られる感じです。ある概念が他の概念に関わる議論から考え出されたという場合もあるので、こういった親和性が現われるのも当然でしょう。一方で異なる経緯で出てきた概念が意図しない形で接続されたりすることもあって、けっこう錯綜している場合も見受けられます。ここで説明できたらよかったんですが私の能力を超えるのでここまでにさせてもらいます。

その研究者がどの立場をとっているかは本人が気づいているかどうかにかかわらず、その論文や著書を読み解くのに必要になってきます。動物行動に関わる研究では、どれかの立場を取ることなしに実験結果を解釈することも難しいです。動物行動に関する言説に触れるときは、その人の考え方がどういう立場に基づいているのかも考慮に入れる必要があります。

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