ある文字について解く
方程式の利用の一つに「文字について解く」と呼ばれる操作があります。やること自体は単純です。例えば長方形において面積S、縦の長さm、横の長さnとするとS=mn…(1)という関係がなり立っています。この式で「nについて解く」と、両辺をmで割って左辺と右辺を入れ替えてn=S/m…(2)になります。要するに「xについて解く」というのは、その式を変形してx=の形にすることです。こうしておくと、上の場合なら色んな長方形で、面積と縦の長さがわかっているときにそのときどきの横の長さがわかります。面積30、縦の長さ6の長方形なら、横の長さは(2)の式にS=30、m=6を代入してn=30/6=5となり、このときの横の長さは5であることがわかります。面積40、縦の長さ5なら横の長さはn=40/5=8です。他にも応用の仕方があって、ある文字について解いてそれを他の式に代入して変数の関係を変換するとか、連立方程式の変数の数を減らすとか、いろいろです。
「文字について解く」具体例をいくつか挙げておきます。
具体例(1) 「V=Sh/3をhについて解く」
\begin{align}
V=\frac{Sh}{3}\\
3V=Sh(両辺を3倍)\\
\frac{3V}{S}=h(両辺をSで割る)\\
h=\frac{3V}{S}(左辺と右辺を入れ替える)
\end{align}
具体例(2) 「(3x+y)/4=zをxについて解く」
\begin{align}
\frac{3x+y}{4}=z\\
3x+y=4z (両辺に4をかける)\\
3x=4z-y (左辺のyを右辺に移項する)\\
x=\frac{4z-y}{3} (両辺を3で割る)\\
\end{align}
解く文字をxとすると、ax=…という形に持っていって最後両辺をaでわるという操作で解くことができます。具体例(2)ではその形に持っていくためには最初に両辺に4をかけるか左辺を3x/4+y/4の形に変換しておく必要があります。文字について解くこと自体はパズルみたいなものなので、中学数学の問題なら練習すればできるようになると思います。
このページではもうちょっとだけ具体例を示して話そうと思います。中学一年で時間と速さと道のりの方程式を立てて求める値を求める問題が出てきます。この三つの値には次のような関係があります。
- 道のり=速さ×時間
- 時間=道のり/速さ
- 速さ=道のり/時間
「進んだ道のり」と「かかった時間」と「(平均の)速さ」という言葉の意味を考えればこの三つの関係式を導くことができるのですが、毎回これを考えるのはちょっと大変です。三つとも覚えればよいのですが、記憶力の悪い人間にはこれも大変です。そこでどれか一つ覚えて式変形すれば、もう少し楽に方程式を立てることができます。この式変形を行う操作が、上でやった「文字について解く」ことです。
ここでは一番上の「道のり=速さ×時間」を例にとりましょう。ここでの「速さ」というのは「単位時間あたりに進む距離」のことで時速40kmなら一時間あたり40km進む速さですよ、ということを意味しています。ということはこの速さで3時間車を運転したら、そのときに進む距離は40km×3で120kmになります。こんなふうにして「道のり=速さ×時間」という関係を思い浮かべることができたら、あとはこの式で「速さ」や「時間」について解くことで、もう二つの関係式「速さ=道のり/時間」と「時間=道のり/速さ」を導き出すことができます。
等式が成り立っている場合は、もっと複雑な式でも適切な操作で式変形していった場合は、たとえ元の式から想像もつかないような形になったとしてもその関係式が成り立ちます。これからもっと後、大学の自然科学分野(特に物理学)の本を読んでたりするときに、眼がくらむような長くて複雑な式変形を眺めながら、ふと、今いったい何をしてるんだろう?と不思議に思うことがあります。そんなときは中学数学まで戻って思索を巡らせてみるのもよいかもしれません。
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