哲学の始原 - 古代 - 趣味で学問

哲学の始原

1.ミレトスの哲学者:タレス、アナクシマンドロス

「哲学の祖」と呼ばれるのがタレスです。彼はミレトスの人で、彼の思想は、海に囲まれたギリシア世界の風土から自由ではなかったようです。

タレスは世界のはじまり(アルケー)を「水」とみなしたとされます。世界のはじまりを問うことは神話のそれと明確な区別はできないですが、すべての原理を問うことによって両者の間に確かに違いが生じています。ミレトスの哲学者たちは自然(ピュシス)に目を向けて、自然を、その生成変化においてとらえていたと考えられています。
生命の営みは常に移ろい行き、何一つ同じ姿のままとどまることがないように思えます。生命の営みの中には、確かに反復や循環として、移ろい行くことそのものを可能にする、変わりえないものの姿をそこに見い出すことも可能です。タレスがそれ自身は変わりえないものを「水」とみなしたのは、植物や動物の誕生から死滅において、反復や循環はそれ自体が水の存在によって可能となっているように見えるからでしょう。

アナクシマンドロスは、タレスが見てとったものを、アペイロン(無限なもの)の言葉で説明しようとしたと考えられています。「アナクシマンドロスが語っているものは、寒さと暑さ、昼と夜、雨季と乾季のように、あるいは火と水のように交替して、一方が他方に置き換わってゆく自然のなりゆきであったように思われる。」(熊野純彦)

アペイロンは無限なるものであるので、それ自身、始まりや終わりをもたないはずです。そうでなければ有限であることになってしまいます。すべてのものはアルケーであるか、アルケーから産まれたものであるはずなので、アペイロンはアルケーそのもの、自身のアルケーを持たず他のものたちのアルケーであることで、世界を包含する原理たり得るようにも思われます。

2.秩序と調和の哲学:ピタゴラス、ヘラクレイトス

ピタゴラスとその同時代の人ヘラクレイトスは、秩序(コスモス)と調和(ハルモニア)の哲学者であったとみなせるようです。このうちピタゴラスの定理で有名なピタゴラスとその学派は、輪廻をめぐる思考を展開しました。輪廻という発想は、魂が生物から生物へと住み替えていくことであるので、それを可能とする条件として、あらゆる生き物が基本的には同質的であるという前提が必要と考えられます。魂は身体を超えて永続するので、何か感覚を超えたものが存在し、そしてそれは感覚以外のなにかによってとらえられなければなりません。ピタゴラスらは、見えるものの背後に見えない秩序を見通していました。たとえば耳にここちよい音階(ハルモニア)の向こうに、高低を伴って通底する音程(オクターブ)を見い出していました。例えば一オクターブ上は周波数が倍であることで表現されるのであり、彼らは秩序(コスモス)と調和(ハルモニア)は「数」や「比」によって成立するという考えに至りました。

ミレトスの哲学者において、世界のはじまり(アルケー)は、自然の反復や循環を可能にするそれ自身は変わりえないもののことでしたが、ピタゴラスにおいては、音階をもたらす比(ロゴス)としてとらえられていました。見えるものの背後に、それを可能にする見えない秩序を見て取っていたことにおいて、ミレトスの哲学者たちとピタゴラス派の間に類似性を見ることが可能と思われます。

一方、ピタゴラス派と同じ用語を用いながら、ヘラクレイトスは相反する思考を紡ぎだしていたようです。相反するもの、対立するものの両立を指して「調和」の語を用いていました。彼は、「一なるもの(アルケー)が相反するものの調和としてある」と考えていたのかもしれません。

  • 参照文献:熊野純彦『西洋哲学史 古代から中世へ』(岩波書店)

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むつきさっち

物理と数学が苦手な工学博士。 機械翻訳で博士を取ったので一応人工知能研究者。研究過程で蒐集した知識をまとめていきます。紹介するのはたぶんほとんど文系分野。 でも物理と数学も入門を書く予定。いつの日か。

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