木村草太『増補版 自衛隊と憲法』書評と要約
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目次
1.評価
評価:
自衛隊を日本国憲法との関係でどのように解釈可能であるかを、必要な部分を抽出しながら簡潔にまとめてくれたありがたい本です。憲法の解釈は一つの条文だけでなく、他の条文との関係も考慮して行わないといけないらしく、そんなことが素人にできるはずもなく、代わりに法学者の木村草太が一般的な解釈を示してくれています。文体も読みやすく、難解なはずの憲法関連書なのにすらすら読み進めることができます。このように素人では手のつけようのない事項に関して、読んで取っ掛かりになる機会を与えてくれており、評価は高めの4.0にしています。
自衛隊関連の話題がほとんどですが、緊急事態条項など、その他の改憲提案についてもまとめられています。その他、ウクライナ戦争を踏まえた戦争と国際法の関係にも言及されています。自分が読んだのは第二版にあたり、2022年に出版されたものですが、現在取りざたされている改憲案と重複する部分も多いです。この著書が、改憲に対する判断の一助になってくれるのは間違いないと思います。
2.章ごとのまとめ
要約するのが難しいので、「こんなことが書いてあった」という感じで章ごとにまとめてみようと思います。
序章 憲法改正の手続き
自衛隊の話に入る前に、まずはどうやって改憲するかについてまとめてあります。改憲の発議には衆院、参院のそれぞれで3分の2の議員の賛成が必要で、改憲には国民投票で過半数の賛成が必要です。次いで国会での発議の手続き、国民投票の手続きについて書かれています。国民投票では、一つの案につき一つの投票用紙が配られて、それぞれの案個別に投票するとのことです。
憲法の基本原理に反するような改正はできず、憲法改正限界と呼ばれているそうです。明文の規定はないが、立憲主義・国民主権・平和主義・基本的人権の尊重・権力分立などの憲法の根本原理に反する改正は、改正限界だとの見解が通説だそうです。
第一章 国際法と武力行使
19世紀の国際法では武力行使が必ずしも違法ではなかったが、20世紀に入り徐々に戦争や武力行使を禁止する条約が結ばれていき、二度の大戦を経て武力行使は原則禁止されるようになったそうです。また、侵略国家が現れたときは国際社会全体で対応することになったのですが、安保理決議がでるまでは個別的自衛権、および集団的自衛権の行使が認められているとのことです。これら自衛権には行使するための条件があり、権利濫用の問題について述べられています。国際法は強制執行する仕組みが未発達であり、例えばウクライナ戦争ではロシアによる主権侵害と国際司法裁判所から判決されていますが、武力行使を止めることができていません。ただしロシアに対する批判は、国際法があるからこそ可能であることが、章の最後に記されています。
第二章 憲法9条とその意義
立憲主義的な憲法は主権の濫用を抑えるためのものであり、軍隊と戦争のコントロール、つまり「シビリアンコントロール」が重要な役割の一つであることが述べられています。日本国憲法では憲法9条がこれを規定しています。問題となっているのは第2項の方で、侵略用でない軍隊や戦力は認めるとする解釈(「芦田修正説」)と、侵略用かどうかは関係なく「軍」一般と「戦力」一般を禁じているとする解釈の二つの解釈があるそうです。9条だけではどちらの解釈も妥当に思えますが、外国の憲法と見比べてみると、芦田修正説には致命的な問題があることが続いています。軍事に関わる権限が憲法のどこにも書いて無くて、これは軍隊をもたないことが前提(「軍事権のカテゴリカルな消去」)だと考えるしかないようです。このように軍隊についての規定がないので、芦田修正説をとると軍隊を憲法でコントロールできないのでとても危険であるとのことです。
第三章 政府の憲法9条解釈
2014・7・1閣議決定から、政府は武力行為一般禁止説をとっていると解釈できて、そこから憲法13条を持ってきているそうです。13条では国が国民の生命・自由等を保証するよう求めているので、外国からの侵略行為に対処できないと、これらの国民の権利が守れないことになってしまいます。そこで我が国の自衛のための措置は憲法9条下でも例外的に許される、というのが政府の考え方のようです。
自衛隊をどう捉えるかについては、戦力だけど13条をもとに例外的に許されるとする考え方と、保有の禁止された「軍」、「戦力」は自衛を超えたもののことで、自衛隊はこれら「軍」、「戦力」にはあたらないという考え方の二種類があるとのことです。政府解釈は後者の方です。そして自衛隊も行政各部に含まれるとされているそうです。
敵基地攻撃能力に関しては、ミサイルが発射されてからでは国民の生存権が守れないので、発射される前に攻撃する能力は、必ずしも9条に反するとはいえないようです。しかし反撃能力保持による周辺国との緊張の高まりなどの危険性も指摘されています。
第四章 裁判所の憲法9条解釈
自衛隊の合憲性について、地方裁判所のレベルでは判断の判決がありますが、最高裁が判断したことはないそうです。代表的な裁判として、恵庭事件、長沼ナイキ訴訟、百里基地訴訟の三つの判決例が紹介されています。
それに対し日米安保条約に関しては、外国が日本国内に基地を設置しても、日本が「軍」・「戦力」を保有したことにはならないとして、日米安保条約を合憲とする最高裁判決(「砂川判決」)があるそうです。
「必要最小限度の実力」は国際情勢により変わるので、日本の核保有が必ずしも違憲とはならないことが「補足」に述べられています。ただし核不拡散条約への署名や、憲法98条2項(国際法規の遵守を規定)によって、核保有は禁止されていることになるそうです。
第五章 自衛隊関係法の体系
憲法ではないですが、自衛隊に関する法律が相当程度に合理的に体系化されているそうです。
憲法9条で禁止されているのは「国家」への「武力行使」で、国家以外の対象への「武器の使用」が禁止されているわけではないとのことです。自衛隊の武力行使が可能なのは、相手国による武力攻撃への着手が認定されたときです。その他、治安維持や災害派遣などについても、要件が法律としてまとめられているそうです。
また、国外で起きる事態に対する行動も、法律で定められているようです。外国軍の武力行使に対する後方支援、在外邦人の保護・輸送、国連の平和維持活動(PKO)に関する活動について規定されていて、自衛隊が海外で武力行使をしないように定められているとのことです。
第六章 2015年安保法制と集団的自衛権
2015安保法制では性質の異なる内容がたくさん含まれていたそうです。このうち重要となる法案が6つ紹介されています(p.130に改定の概要をまとめた表あり)。続いて、問題となった事柄がまとめられています。「法案審議の方法」、「自衛隊員の安全確保」、「弾薬提供・戦闘機給油の解禁」、「事後的な責任追及の手続」の4つです。
これらの問題とは別に、集団的自衛権行使容認は憲法違反だという強い批判があることが述べられています。「存立危機事態」の定義が不明確であり、意味不明な立法を行うこと自体が違憲だとされています。
第七章 自衛隊明記改憲について
p.152-153に2016、2017年の毎日新聞世論調査結果が表にまとめられています。その結果から、多くの国民が自衛隊は憲法9条に反しないが、集団的自衛権の行使には違憲の疑いがあると考えているようなので、問うべきは「集団的自衛権の行使を容認するか否か」ではないかと述べられています。
自衛隊明記の改憲では、自衛隊がどのような組織であるか確定しておかないと、全く意味のないものとなってしまうそうです。自衛隊をどのようなものとして記載するかは、「個別的自衛権限定型」、「集団的自衛権行使容認明記型」、「国防軍創設型」の三つが挙げられています。自衛隊明記改憲の発議を行うには、自衛隊の任務の範囲を明記することが最低限必要なこと、「<第一投票:日本が武力攻撃を受けた場合に、防衛のための武力の行使を認めるかどうか>と<第二投票:日本と密接な関係にある他の国が武力攻撃を受けた場合に、一定の条件の下で武力行使を認めるかどうか>の二つに区分した投票をすべき」(p.160)と考えられています。
第八章 緊急事態条項について
自衛隊とは別に話題となっている改憲項目として、緊急事態条項について述べられています。98条は「「法律で定める緊急事態」になったら、閣議決定で「緊急事態の宣言」を出せ(98条1項)、緊急事態宣言には、事前又は事後の国会の承認が要求されます(98条2項)。」(p.172)。この条文はかなり危険だとのことです。具体的な問題点の説明の後に、次のように問題点がまとめられています。「まず、内閣は、曖昧かつ穏やかな条件・手続の下で、緊急事態を宣言できます。そして、緊急事態宣言中、三権分立・地方自治・基本的人権の保障は制限され、というより、ほぼ停止され、内閣独裁という体制が出来上がります。これは、緊急事態条項というより、内閣独裁権条項と呼ぶべきでしょう。」(p.174)。
一般に外国において、戦争や大災害などの緊急事態における規則は個別の法律として事前に準備されるのが普通だとのことです。さらに緊急事態条項が定められている国でも、その発動条件はかなり厳格なものだそうです。
日本においては内閣が国会を召集する権利があるので、必要な法律があるなら国会の議決を取ればよいこと、また、すでに緊急事態について詳細な法律規定が整備されていることが述べられています。緊急事態に対して本当に必要なことは、法律を使いこなすための訓練、備蓄、各自治体への援助や予算などの確保であろうとまとめられています。
第九章 その他の改憲提案について
話題となっている、その他の改憲提案についてまとめてあります。まず「教育無償化」についてで、「国際人権規約」を日本は批准しているので、高等教育無償化はすでに憲法上の義務であり、どう実現するかを話し合う段階にあるとのことです。
「憲法裁判所の設置」も改憲項目に挙がったことがあり、これは具体的な事件がなくとも違憲立法審査をしてもらえる仕組みが目的だそうです。これには厳格な人事手続が必要となるだろうとのことです。
また、「衆議院解散権制限と憲法53条の期限設定」の問題について述べられています。政府による不当な衆議院解散権行使が行われないように、3つの対応策が挙げられています。憲法の改正の他に、厳格に解散の手続を定めた法律による実現も提案されています。
その他、「参議院合区解消」、「死刑制度」や「原発問題」についても取り上げられています。
3.追記
章ごとに簡単にまとめたつもりがすごい量になってしまいました。でも上のまとめでは判断にまったく足りないと思います。著書では、憲法の条約や法律で重要な箇所がそのまま引用されていて、元の記述に触れることは重要なことだと感じます。それらはぜひ著書を手に取って直に読んでいただけたらと思います。それは書評を書くたびに言ってますが、法に関する著書では特に、憲法や法律の原文に触れることが大事に思えます。
最後にこの著書の一番核になっているであろう第二章と第三章の結論を書いて終わろうと思います。自分は結論を読み取るのにけっこう苦労しました。
- 自衛隊と憲法の関係:憲法9条から「軍」一般と「戦力」一般は禁止されている。一方、憲法13条から国民の生命・自由等を保証する義務が国にはあるので、外国からの侵略行為に対処するための組織が必要である。9条で禁止されている「軍」、「戦力」は自衛を超えたもののことで、自衛隊はこれら「軍」、「戦力」にあたらない行政組織だ、とするのが政府解釈である。
憲法13条をもとに例外的に自衛のための軍は許される、とする解釈もあるが、軍事権のカテゴリカルな消去のためとても危険なので、こちらの解釈はとられていないみたいです。今までの政府解釈は、憲法全体で整合性がそこなわれないように考慮されていた、ということですね。
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